インタビュー企画「KITAQ Style 1000 Project ~北九州市の“人”をもっと知る~」

住まずとも都の北九州【エッセイコンテスト 入賞作品】

エッセイコンテスト「第1回 キタキュースタイルカップ」 入賞作品

「こんなことならナフコで買って送ればよかった。」

一人息子の進学に伴う引っ越し先で何度も繰り返した言葉。今では笑い話となったが、そのときは限られた時間が刻々と過ぎる焦りの中で、とにかくどこかで日用品を揃えなければならないと親子共々必死だった。

2012年3月末、北九州で生まれ育った私たち夫婦の一人息子は、中学の修学旅行で三十三間堂に魅せられたとのことで京都に住みたいと強い意志を固め、本当に京都への進学先を手に入れた。北九州から離れるといった感傷的な気分に浸る間もなく、衣装ケース2つに着替えとすぐに使うであろうヤカンやトイレットペーパー数個、少しの食べ物を入れ、普段使っている布団一式やらを車に積み、フェリーで大阪へと向かった。大阪から京都へ向かうまでは、まさか駐車場一つ探すにも苦労するとは思いもしなかった。

先に子ども二人を他県へ送り出した友人から「日用品はこっちでそろえて送った方がいいよ。こんなに便利なとこはないから。」「そうなん?」「徒歩圏内にホームセンターがあるとこってそうないよ。」東京出身の友人がそう言ってくれたものの、それは東京の大都会の話だろうと思って、着いて買えばいいと全く気にしていなかった。

北九州しか知らない私は、どこへ行ってもその土地のホームセンターが必ずあるものと思いこんでいたのだ。もちろんないわけではなく、車でだいぶ走らなければならない。閑静な住宅地だからか近辺にスーパーもなく、少し歩けばコンビニは1軒あったが思っていたより周りに店がなくだんだんと心配になった。そういえば病院もみかけない。きょろきょろとしながらやっと着いたホームセンター『コーナン』は駐車場と店舗が少し離れていて、広い平屋の店舗に慣れていたせいか狭く感じ品数までも少なく感じたが、とにかく買わなければとメモ片手に最低限必要なものを買い込み店をあとにした。

ナビのついていない車を運転する夫は「なんで都市高速がないんだ。」と嘆くことしきり。それだけでなく、駐車場もなかった。息子の借りた部屋近くにみつけた有料駐車場は宿泊かと思う料金で、自分の中の相場が格安だったことにやっと気づいた。
 
 

京都では自転車の駐輪ですら有料の場合もある。それは京都が観光地であることと、学生が多い都市であることを考えれば当然かもしれない。横看板もなく色も統一されており、どこを見ても世界に誇れる美しい京都だ。歩いてもゴミも落ちていない。一方北九州は生活者を中心として街が形成され、便利であることも重要だ。高齢化率も高いので、徒歩圏内で買い物できないのは困る。街づくりというのはそれぞれの土地で違うものだろう。

そんなバタバタとした2日間でとにかく時間がなく、買ってきた日用品をしまうのに必死だった。物干し竿まで準備できなかったがあとでネット通販で頼んだと聞き、なんでもネットでよかったねと笑ったものだ。

これが京都から北九州に来たとしたらどうだろう。おそらく身一つで問題ない。例えばミスターマックスに行けば、格安で家電から布団、食料品まですべて揃う。近くにグッデイもトライアルもあるので収納家具を比べることもできる。あちこちにあるドラッグストアでは食料品も取り扱っているので買いだめする必要もない。コインランドリーも多いので洗濯機がなくても大丈夫だ。総合病院も開業医も探す必要がないほどある。当たり前だと思っていた便利さは、時間をかけて住む人の目線に立って街ができたのであろう。

私は意識していなかったが自然も素晴らしいようだ。関東に嫁いだ友人は、帰省の度に山を仰ぎ「山よー!」と満面の笑みを私に向ける。帰省した息子と海沿いをドライブすれば「海だー!」と歓喜の声を出す。ちょっと行けば何でもそろい、海や山もある。残念なことに人口は減っているが、ある意味故郷を離れた人々が、全国に北九州の良さを広めてくれているのではないかと思う。遠くに嫁ごうと遠くに就職しようと、生まれ育った北九州は便利で温かくて美味しいところがいっぱいなのだ。 
 
北九州をPRするとき、小倉城やモノレール、最近では工場地帯の夜景も見るが、生活するのに大切な買い物する場所を忘れてはいけない。旦過市場ももちろんだが、地域に根付いているスーパーやホームセンター、ディスカウントストアの便利さも加えてほしいと思う。おそらく、災害で避難してきてもすぐに仮住まいが整うはずだ。
 
それぞれの区にそれぞれの暮らし、便利で住みやすい北九州。住んでいる市民の快適さこそが、この街の未来に繋がるのではないだろうか。10年先ももっと先も変わらぬ自然と市民の温かさ。それは住んでいなくても訪れた人の心にきっと届くと思う。私はそんな北九州にこれからもずっと住み続けたい。

作者:N.Mさん
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