変わりゆく街【エッセイコンテスト 入選作品】

エッセイコンテスト「第1回 キタキュースタイルカップ」 入選作品

生まれ育った街を大切に思う人はどれくらいいるだろうか。その多くは「一度故郷を離れた人」ではないかと思う。私は12歳の頃に生まれ育った北九州市から長崎の小さな町に引っ越した。

当たり前に毎日を過ごしてきた場所を離れた時、初めて「この街が大好きだったんだ」と気づく。進学、就職で慣れ親しんだ故郷を去る人は皆同じように思うのではないだろうか。それが賑やかな都会でも自然あふれる田舎でも、生まれ育った場所というのは「想い出」によって魅力を感じるものだ。

私にとってはそれが「北九州」なのである。

大人になった今、想い出だけではない北九州の魅力とは何かと考えた時、まず浮かんだのは「子育てしやすい街」。これは子育て経験のない私でも感じることができる。そして実際に子供として楽しく元気に過ごしたことは「子供が元気に育つ街」の証明でもある。

当時の私は学校を終え毎日のように自宅の玄関にランドセルを投げ出し近所の公園へ向かっていた。誰と約束をするわけでもなくそこに行けばクラスメイトが大勢おりドッヂボールが始まる。そんな日常があったが近年、全国的に遊具の撤去や公園そのものが少なくなっているそう。だが北九州はどうだろうか。今でも12年間過ごした故郷に帰りたいと、年に2〜3度程、育った八幡西区周辺を訪れるのだが車を走らせる道中、公園…公園…また公園…「さすが北九州」と鼻を高くしてしまうほど他の地域と比べ子供が思いきり遊び回れる広場が多いように思う。公園のみならず「いのちのたび博物館」「到津の森公園」「響灘緑地」など楽しみながら学べる施設が充実していることも魅力。家族や社会科見学で訪れ数々の場所に、将来結婚して子供ができたら、一緒に想い出を作りたいと夢を描くこともある。門司港レトロで海沿いを歩きたい…リバーウォークでショッピング…皿倉山で夜景…挙げていけばキリがない。

そんな中、1つだけ叶わなくなってしまったことがある。それは「スペースワールドに行く」こと。約3年半前、そのニュースを見て愕然とした。なんで。どうして。その言葉しか出てこなかった。信じられない信じたくない。それ程「閉園」と言う2文字に絶望し涙が溢れた。生まれた時からある場所。物心がついた頃から大好きな場所。想い出の詰まった大切な場所。子供の頃は行くと決まれば夜は眠れず、それでも朝は早く起きてしまう。早く乗り物に乗りたくてたまらない!お母さん手作りのお弁当を手に走り出す。半年前に乗れなかったアトラクションに今度こそは!と少し背伸びをして挑む。成長した背丈。何度も悔しい思いをしてきた念願のアトラクションに乗れた時の興奮はたまらなかった!キャラクター達と触れ合い、ステージショーにテンションが上がる。まだ帰りたくないと駄々をこねる。子供にとって「遊園地」は特別な存在だ。特別な場所の特別な想い出。大人になってからも家族はもちろん友達と、恋人と、素敵な想い出を作ってくれた。まだまだこれからも…そう思っていたが、あまりにも突然に終わりを告げた。しばらく唖然としていた。でも悲しんでばかりではいられない。決まった事は受け入れるしかない。最後まで盛り上げたい!最後の営業日となる2017年12月31日。開園から深夜の閉園までアトラクション、ショーを満喫し、もう2度と見れなくなる光景をたくさん写真に収めた。観覧車から眺める八幡の街並み、タイタンの頂上から見る園内の景色、名物のスペースシャトルの前で打ち上がる花火イリュージョンは幻想的だった。グランドフィナーレのショーでは埋め尽くされた客席と熱気に今、この瞬間、この空間はどこよりも最高の場所だと思った。そして同時に湧き上がる切なさ、儚さ。時間よ止まれと何度も願ったその場所は、その後月日が経ち1つ、また1つとアトラクションが撤去されていった。建物が壊され、スペースシャトルが消えた。

今も更地を見ると辛く、悲しみが薄れることはない。しかし新しく生まれ変わるこの場所で市民はもちろん、県内外多くの人にとって最高の想い出となる場所になってほしい。

作者:なっちゃんさん