北九州市に来たばかりで知り合いがいない、などの理由で、いわゆるソロ活を余儀なくされる機会も多々あるかと思いますが、初めてのお店に一人で入るのはなかなか勇気がいるものです。
そこで、一人で行っても馴染みやすい、一人なのに不思議とさみしくない!そんな、北九州市のカウンターのあるお店をご紹介していきたいと思います。
店主さんとおしゃべりしたり、他のお客さんと仲良くなったり。 “一人だからこそできる楽しみ方”をぜひ北九州市で極めてください。
【マルハチ珈琲焙煎舎】
最初の一歩
電車では『九州工大前駅』から徒歩10分ほど、バスなら『工大前バス停』から徒歩1分ほどのところに、【cobaco tobata】という複合型の店舗があります。もともと産婦人科の病院だった二階建ての建物をリノベーションし、一部屋一部屋にお花屋さんや雑貨屋さんが入居して、誰もが気軽に立ち寄って楽しめる「まちのお店」として開かれています。
築およそ70年ということで趣のある建物ですが、植物が飾られていたり複数の店舗それぞれのカラフルな看板が掲げられていたりするので、なんだかわくわくして引き寄せられる外観ですよね。
その一階にあるのが【マルハチ珈琲焙煎舎】。玄関から入ってすぐの場所にあり、cobacoのドアを開けた瞬間に珈琲のいい香りが鼻をくすぐります。お店の入り口はオープンになっているため入りやすく、そして何より珈琲の香りと、店主の八児(やちご)さんがあたたかく迎えてくださるので、おひとり様でも、初めての方でもすっ、と引き込まれる柔らかい雰囲気のお店です。
焙煎機がお出迎え
あいにくのお天気だったこの日でも大きな窓からの自然光で、明るく気持ちの良い店内。アンティーク調の家具や木のぬくもりがレトロな建物に調和して落ち着くので、とてもゆったりとくつろぐことができます。
店内で存在感を放っているのは、自慢の焙煎機。店名の通り、開店当初から自家焙煎を行い、心を込めてハンドドリップで抽出しています。コーヒー豆も数ある取引先の中から、なるべく顔の見える付き合いができて信頼関係のあるところから買い続けているそう。豆の種類は常時5、6種類を厳選し、好みやその日の気分によって選ぶことができます。コーヒーに合うフードやスイーツがあるのも嬉しいですよね。パンなどの持ち込みもOKとのこと。ご近所でパンを買ってマルハチさんのコーヒーと一緒にいただけば、贅沢なひとときが過ごせそうです。
大学が近いということで学生さんは100円引き、また、ゆっくりしたい人にうれしい2杯目以降100円引きになる『おかわり割』なども。そして、コーヒーが苦手な人やお子様のためにコーヒー以外のドリンクも豊富にそろえているなど、メニューを眺めているだけでも、八児さんの「この空間でどんな人も、ゆっくりと居心地よく過ごしてほしい」という優しさを感じることができます。
珈琲とともに歩んできた人生
小さい頃から、親御さんが朝食にコーヒーを淹れてくれていたという八児さんにとって、コーヒーはずっと身近な存在だったようです。飲む専門だったコーヒーがさらに興味深いものに変わったきっかけは、以前取材させていただいた【メガヘルツ】だったそう。当時メガヘルツでは自家焙煎でスペシャリティコーヒーを出しており、品種や生産地などそれぞれの豆によって香りがまったく異なり、「なんだこれは!」と衝撃を受けたといいます。
そんな折、北九州から東京に転勤することになった八児さん。最初は慣れない土地を把握するためにカフェに通っていたそうですが、転勤後に会社内の環境がガラッと変わり、「このままこの仕事を続けて大丈夫かな」と自分のこれからの生き方を初めて考えるようになり、気分転換や静かに考える時間を持つため、カフェによりのめり込むようになりました。
さらに転勤の翌年、八児さんはとある本に出会います。本屋さんに立ち寄った際、まちづくりやリノベーションに関するコーナーが設置されており、なんとなく手に取った本がたまたま北九州について書かれていた本でした。一度衰退してしまったまちを、古いものを活かすことで自分の思い描いたまちに変えていく。「ないものを、自らの手でつくる」という新しい発想を得た八児さん。「暮らしをつくっていく」という考えに感銘を受け、その後の八児さんの理想に大きな影響を与えることになります。
少しずつ理想をカタチに
仕事を辞める、と決めてからも、その後どうするのかまだぼんやりしていた八児さんは、仕事を辞めるまでの期間、様々なことにチャレンジします。
仕事を辞めようと思い始めたときに出会ったのが、あらゆる角度からカフェについて学ぶ「カフェ自由大学」。自分はカフェやコーヒーが本当に好きでそれを仕事にしたいのか、付随する何かがやりたいのか、根っこの部分を学ぼうと思い、受講を決めたそう。
会社に辞めると伝えたあとも、ギリギリまでいろんな選択肢があったそうで、ジャンル問わずいろんなイベントの手伝いをしたり創業スクールにも通ったりしながら、飲食店なのかその他の業種なのか、東京に残るのか北九州に帰るのか、様々な可能性についてとにかく悩みに悩んで日々を過ごしていました。
そんな中で、焙煎を教えている、という人に出会い、個人的に教えてもらえることになった八児さん。初めて豆を焼いたときから「単純にすごく面白かった」。これが八児さんにとっての焙煎との出会いでした。
そしてついに、「自分が関わるものを一から作って、それを基にして場所をつくってみたい」と漠然と思い描いていたものが”焙煎”とキーになって結びつき、今の【マルハチ珈琲焙煎舎】の形が頭に浮かんだのです。
もし場所をつくるなら東京よりも北九州の方がイメージがつきやすいと感じた八児さんは2017年、北九州に戻り、カフェ開店の準備を始めます。
“場所”をつくる
東京で焙煎を教わった人が所有していた焙煎機が、こちらも以前取材させていただいた北九州の【エンゲル】に譲られたという不思議な縁もあり、北九州に戻ってからもすぐに焙煎が続けられる環境があった八児さんは、知人のお店の一角を借りてコーヒーをふるまったり、原価価格で焙煎した豆を売ったりしながら物件を探していました。そんなとき現在の場所を紹介され、とりあえず見てから考えよう、と思って実際に訪れた八児さん。
「古い建物なのに明るく感じたこと、夢物語だと思っていた”昔の物件を活かして自分で新しく造りかえること”ができること、そして何より、この10坪の空間を見渡してお客さまがいる風景や、焙煎機はここに置いて…など、パッとイメージが浮かんだんです。一軒目で見つかってしまった!とあまりの理想の出会いにびっくりしました(笑)」
とはいえ申し込んですぐに内装工事やトレーニングなど、寝る間もないほど怒涛の開店準備に追われながら半年足らずでお店をオープン。「知らないからできたことで、今なら絶対にしない」と当時を振り返る八児さんですが、それも東京で2年間、しっかり悩んだ時期があったからこそ。「たくさん助走期間をもらっていたのがラッキーだった」と語る八児さんは、努力家なだけでなく、常にアンテナを張る感度の高さと、自分を成長させるために何にでも挑戦するバイタリティ、そして縁をとても大切にする誠実な人だな、という印象を受けました。
これからのカタチ
これからのことは「この場所で、できるだけ長く続けられたら」としか考えていないという八児さん。しかし、それは簡単なことではありません。
コーヒーは世界情勢に影響されやすく、物流や人の動きによって常に状況が変わってきます。技術的な向上のために勉強したり大きなイベントに参加して世界を広げたり、自分から情報を掴んでいくことが必要になります。「長く続けていくための努力や投資は止めてはいけないと思っています」と語ってくれました。
そして八児さんの意識をさらに変えたのが、産地視察のためにエチオピアを訪れたこと。
貧困も大きな問題となっており、想像以上に過酷なエチオピアの実際の現場を見て、より強く「続けていかなければ」と感じたそう。
「自分が正しく焙煎して、お客さまに美味しいと飲んでもらって、もっと豆を買ってもらえれば、自分も豆を買い続けられます。お客さまの中に国際的な仕事に従事する人が一人でもいて、コーヒーの生産者や社会情勢を変える仕事に携わる人がいれば、現地の人たちがもっと安心して勉強したり、普通に笑いながら生活したりする人も増えるかもしれません。だから私は、続けるために知識や機械のアップデートや、ビジネスの勉強をしていかなければなと思っています。自自分自身を更新しながら続けていく、というのが、今一番、大切にしていることです」
詳細情報
戸畑区中原西2丁目4-22
営業時間/9:00~19:00
定休日/水曜日
※臨時休業などの情報ははInstagramの投稿をご確認ください
協力:門司港ゲストハウスポルト