林芙美子文学賞大賞受賞・山本莉会さんインタビュー

北九州市が主催する公募新人文学賞「第12回林芙美子文学賞」で大賞を受賞した山本莉会さんに、お話をうかがいました。編集プロダクションに勤める会社員でもある山本さんに、創作の原点や受賞作の成立過程、今後見据えるものについて話を聞きました。(インタビュー日:2026年2月27日)

——小説を書くようになった原点から教えてください。

もともと本が好きな子どもでした。物心がつく頃からずっと本を読んでいたのですが、10歳のときに芥川龍之介の『トロッコ』を読んで大きな衝撃を受けました。「なんだこれは」と。それまで読んできたものとはまったく違って、言葉にできない衝撃があり、そこから日本近代文学にのめり込んでいきました。

本に触れる入口になったのは図書館でした。母によく連れていってもらっていて、毎週10冊借りては返す生活を続けていました。大学でも小説を書くために、近畿大学の文芸学部文学科日本文学専攻(創作・評論コース)で学びました。

——大学卒業後、どのように小説と向き合ってこられたのでしょうか。

大学時代は「小説家になれなかったら就職しよう」と決めていたのですが、公募に出したのは1回だけでした。当時は「これでは賞を取れるわけがない」と自分でも感じていたこともあり、卒業後は就職しました。最初に入社した広告代理店は、自分がやりたかった“書くこと”から離れすぎていたので、その後編集プロダクションに転職しました。そうすると今度は「“書くこと”でお金ももらえてしまう。これで半分夢が叶っているのではないか」という気持ちになってしまいました。大学を卒業してからしばらくの間、小説は書いていませんでした。

子どもの手がある程度離れたタイミングで、「小説家になりたくて上京までしたのに、自分は何をしているんだ」と思い至り、そこから執筆を再開しました。

それからの3年間は、編集プロダクションの仕事に加えて、フリーランスとしての仕事や評論執筆、小説、家事、育児と、目まぐるしい毎日でした。昨年は宮崎智之さんとの評論本『文豪と犬と猫 偏愛で読み解く日本文学』(アプレミディ)も出版しました。

——作品は、普段どのように書き進めているのですか。

1作を書き上げるのは5日から1週間ほど。私は「読まないと書けない」タイプで、その前に読み込みます。評論本の執筆にあたって文豪の全集を片っ端から読んでいたところ、気づけば、公募の締め切りが10日後に迫っていて、慌てて一気に書く……といったこともありました。

多くの作品に触れることで、「自分が何を好むか」という感覚が非常に明確になりました。ライターや編集者として15年以上文章に携わってきたなかで、「完成したものが全て」という感覚が身についたのだと思います。商業ライターの仕事では途中の成果物に執着せず、必要であれば構成から変えます。書いたものを途中で全部捨てて、一から書き直すことにも躊躇はありません。今回の受賞作「むこうの景色は知らない」も、当初は主人公が女性で、今とは全く違う物語でした。5回ほど書き直して、ようやく今の形になりました。

——今回の受賞作「むこうの景色は知らない」は、どのように仕上げていったのでしょうか。

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もともと別の公募に出して、最終審査の一歩手前で落選した作品だったんです。どこが至らなかったのかを考えましたが、やはり自分では「面白い」という確信があったので、130枚あった原稿を70枚に削り、50枚を書き足して応募し直しました。

書き換えたあとに「絶対にこちらのほうがいい」と思えたので、変更に踏み切って正解でした。

——林芙美子文学賞に応募した理由を教えてください。

純粋に好きな賞なんです。以前から過去の受賞作や候補作を読んでいて、レベルの高さはもちろん、自分が好む小説の雰囲気を感じていたこともあって、「林芙美子文学賞には絶対に応募する」と決めていました。

北九州市には知人が住んでおり、以前から身近に感じていた街でもありました。今回、受賞をきっかけに実際に訪れることになり、ご縁を感じています。

——大賞の連絡を受けたときは、どのようなお気持ちでしたか。

最終候補に残るところまではある程度の手応えを感じていたのですが、大賞となるとさすがに難しいだろうと思っていので、純粋にうれしかったです。

——これから先に見据えていることを教えてください。

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小説は誰かと争うものではなく、前回の自分を超えていくものだと考えています。学生時代、陸上部で800メートル走をやっていたのですが、陸上はいかに自己ベストを更新するかを突き詰める競技でした。作家もそれぞれが自分の文学を追いかけていて、いかに過去の自分を超えるか。それだけだと思っています。今後、書きたいものははっきりと決まったので、あとは書くだけです。

——ありがとうございました。

山本莉会さんの「むこうの景色は知らない」は「小説TRIPPER (小説トリッパー) 2026年 春号」でお読みいただけます。