市原佐都子さんが語る舞台『キティ』――「かわいい」が持つ強さ

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撮影:中谷利明

北九州市出身の劇作家・演出家、市原佐都子さんが作・演出を手がける舞台『キティ』が、2026年9月26日(土)、J:COM北九州芸術劇場 中劇場で上演されます。

2024年に行った韓国でのリサーチをきっかけに生まれた本作。資本主義や家父長制、ジェンダーをめぐる問題を、オリジナルの白い猫のキャラクターから発想を得て生まれた“ねこ”という主役から見た物語として描きます。

AIによる音声や映像、モーションキャプチャーなどを取り入れ、俳優自身の声や身体をあえて変形させる独特の舞台表現も見どころです。

作品が生まれた背景や「かわいい」という言葉に込めた考え、国内外での観客の反応、そして市原さんが現代演劇に出会った北九州芸術劇場への思いを聞きました。

韓国でのリサーチから生まれた『キティ』

――作品に登場する家父長制やジェンダー規範といったテーマを、どのように見つけたのでしょうか。

市原佐都子さん: 韓国へリサーチに行ったのは2024年です。

もともと韓国で公演した経験がありました。さらに、韓国・日本・香港3カ国共同制作で作品をつくり、ソウルで上演したこともあります。

韓国は日本にとても近い国ですが、以前から漠然とした関心がありました。兵役があることや、フェミニズム運動が日本と比べて力強く展開されていることが、その理由です。

いろいろな本を読むなかで、シンパク・ジニョンさんの『性売買のブラックホール』という本に出合いました。韓国では、性売買をなくすべきだという立場から強い運動が行われ、法律も変わっています。

日本では、性売買が行われる場所は表から見えにくくなっていると思います。韓国では、そうした場所が、いまでも完全には見えなくなっておらず、目にすることができます。好奇心だけで訪れてよい場所ではないとも感じていましたが、実際に現場を見て、さまざまな立場の人の話を聞きたいと思いました。リサーチしてみようと韓国へ行きました。

実際に働いている人、支援する人、アクティビズムとして活動している人たちに話を聞きました。本当にいろいろな立場の人がいて、活動の方向性によって助けられる人も異なります。どれか一つが正しいということではないのだと、改めて分かりました。どの視点で作品にするのか難しいと感じました。

そのなかで印象的だったのが、性売買の看板や、そこで働く人の持ち物、性行為をする小部屋のカーテンなどで猫のキャラクターを目にしたことです。そこから、世界中に流通している猫のキャラクターがこの社会を見ている、というイメージが生まれました。その視点から、資本主義や家父長制を描いてみようと思ったんです。

AIとモーションキャプチャーでつくる「偽物の状態」

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撮影:中谷利明

――演出面も含めて、作品の見どころを教えてください。

市原さん: 物語は「ねこ」という役を軸に進みます。この一つの役を、3人の俳優が演じています。

キャラクターは世界中に流通していて、持ち主によって投影される人格も違うと思います。例えば韓国の人が持っているキャラクターは、韓国語を話しているかもしれません。同じ役を、ばらばらの個性を持つ俳優が演じることには、そうした意図があります。

以前、インドネシアのナイトマーケットで、偽物のキャラクターグッズがたくさん売られているのを見ました。それがとても面白くて、生成AIのようだと思ったんです。

キャラクターの良いところだけを抽出して組み合わせ、いいとこ取りをしたはずなのに、少し変なものができてしまう。

グローバル化が進み、AIも登場するなかで、誰かの表現や特徴が簡単にコピーされ、組み合わされるようになりました。そうした時代に、一人ひとりの固有性とは何なのかを考えるようになりました。俳優はそれぞれ固有の声や身体を持っていますが、あえて「偽物」の、固有の声や身体がオリジナルからずれた状態に置いてみたいと思いました。

俳優の声をサンプリングしてAIボイスをつくり、AIにせりふを読ませています。身体の動きも、俳優が普通に演じたものをモーションキャプチャーで採取しています。

ただし、センサーは正しい位置に付けず、少しずらした状態でデータを収集して、変な動きをつくります。それを俳優が覚えて演じます。

声も身体も、もともとは俳優自身から出てきたものですが、それが複製され、変形している。そういう「偽物の状態」をつくっています。

衣装では、ごみや既製品など、すでに社会にあるものを少し変わった形で組み合わせ、新しい形をつくっています。

映像もあえてAIで制作し、滑らかでぴったりしたものに仕上げるというより、違和感が残るようにしています。

音楽は荒木優光さんが、耳に残るテーマ曲をつくっています。それを、さまざまなミックスで流します。

肉屋では、赤いライトで肉を照らします。韓国で性売買が行われている場所でも、女性が赤いライトで照らされていました。そこから発想を得て、舞台でも赤いライトを使っています。

「かわいい」が持つ、したたかさと強さ

――『キティ』というタイトルには、どのような意味が込められているのでしょうか。

市原さん:韓国で性売買が行われている場所を歩いたとき、猫のキャラクターを目にしたことが発想のきっかけになりました。

そこからイメージを膨らませ、『キティ』というタイトルにつながりました。

キティは、英語で子猫という意味です。かわいいものは、弱いもの、または保護を必要とするまだ小さいものとして捉えられると思います。

ただ、かわいさを武器にして、自分の身を守っているとも考えられます。

子どもの特徴を残したまま大人になっていく、という生存戦略もあります。そう考えると、かわいいということは、弱くて下に見られたり、ばかにされたりするだけの状態ではありません。

かわいいものはとてもしたたかで強く、本人が一方的に庇護を必要とする状態ではないのではないか、という思いもあります。

――作品に登場する「肉を食べる」という行為には、どのような意味があるのでしょうか。

市原さん: 性売買についてリサーチしました。資本主義社会では、何でもお金に換えられます。それ自体は悪いことではありませんが、行き過ぎると、そうしたことが起きます。

身体を売る仕事に就くのは主に女性です。その背景には、女性が置かれている状況もあると思います。

作品では、ねこの家庭は父親が強い存在で、肉をたくさん食べます。「肉を食べる」ということを、性的な意味と少しつなげています。性欲のことを「肉欲」と言い換えたりしますよね。その欲望が男性を中心に組み立てられている社会の構造を描きたいと思いました。

男性が中心となり、男性が女性をまなざすことが当たり前になっている社会のなかで、主役の“ねこ”は生きています。その猫の視点から資本主義や家父長制の社会を描くことで、お客さんが自分の暮らしのなかで何かを喚起されればいいと思っています。

国内外で異なる観客の反応

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撮影:中谷利明

――『キティ』は国内外のさまざまな都市で上演されていますが、反応に違いはありましたか。

市原さん: 海外でもフェスティバルで上演してきましたが、ヨーロッパでは笑いや拍手などの反応が大きくなります。ヨーロッパの方にとって、アジアの演劇を見る機会は少ないと思うので、その珍しさもあるかもしれません。

これは私個人の印象ですが、日本よりも海外のほうが、モラルを強く意識する人が多いように感じます。反モラル的なことへの嫌悪感が大きい一方で、演劇のなかでそうしたものに触れたときの反応もとても大きいです。また、『かわいい』という感覚も日本とは少し違って受け止められます。海外ではもっと異質で、強い記号として見られることがあります。そうした文化的な距離もあって、作品への反応が大きくなるのではないかと思います。

北九州で育まれた身体感覚と演劇への関心

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©Bea Borgers

――18歳まで過ごした北九州での経験は、ご自身の作風や考え方に影響していますか。

市原さん: 難しいですね。家族やそこで出会った人から受けた影響を、北九州の影響と言っていいのかは分かりません。

ただ、北九州芸術劇場の存在は、とても大きいと思います。

私はクラシックバレエを習っていて、朽網の小さなバレエ教室に通っていました。幼い頃からずっと、身体を使うことをしていました。

――北九州芸術劇場から受けた影響について、もう少し教えてください。

市原さん: 北九州芸術劇場の企画に参加したことで、父親や先生とは違う大人たちに会うことができました。

子どもに対する大人の態度と、大人同士でいるときの態度は違うと思います。大人たちが一生懸命、自分のやりたいことに向き合う姿勢を子どもながらに感じました。単純に、すごくかっこいいと思ったんです。

それは、今の仕事、芝居をつくって生きていくことに、絶対につながっていると思います。

一つのものをつくることに向き合う大人たちの姿勢から、高校生ながらに、とても良い影響を受けました。

演劇を志すきっかけとなった北九州芸術劇場へ

――北九州芸術劇場で『キティ』が上演されることを、どのように感じていますか。

市原さん: それまでは劇団四季しか見たことがありませんでしたが、北九州芸術劇場で初めて現代演劇を観ました。演劇の大学へ行き、演劇を志すきっかけになった場所です。

そんな場所で公演できると、高校生だった自分が知ったらとても感慨深いと思いますし、今の私もそう感じています。

当時の友達や知り合い、先生、劇場のスタッフの方には、とてもお世話になりました。


市原さんが現代演劇に出会い、演劇を志すきっかけとなった北九州芸術劇場。その舞台で、2026年9月26日(土)に『キティ』が上演されます。

公演情報

市原佐都子/Q『キティ』

日程・会場

J:COM北九州芸術劇場 中劇場 2026年9月26日(土)14:00開演 ※開場は開演の30分前

料金(全席指定)

一般:4,000円 U30:2,500円(20~30歳、要身分証提示) ティーンズ:1,500円(13~19歳、要身分証提示、枚数限定)

チケット購入についてティーンズチケットの詳細はこちら
※16歳以上推奨、12歳以下入場不可。
※本作には性的・暴力的な表現が含まれます。

チケット取扱

北九州芸術劇場チケット
【WEB】購入はこちら
【窓口】リバーウォーク北九州5階 Q-station(平日11:00~18:00/土日祝10:00~18:00)
【電話】093-562-8435(12:00~17:00/土日祝を除く)

劇場以外での取扱

響ホール事務室(八幡東区平野1-1-1 国際村交流センター内 9:00~17:00)
チケットぴあ

各種サービス

・託児サービス:公演初日7日前までに要予約(お子様1名につき1,500円、対象:満6ヵ月~10歳未満)
・車椅子のお客様:車椅子のままご鑑賞いただけるスペースがあります。購入前にお問い合わせください。
・団体観劇:法人・個人を問わず10名様以上のグループ観劇を承っています(一部対象外の席種等あり)