エッセイコンテスト「第1回 キタキュースタイルカップ」 入選作品
35歳のある日の日曜日。
7歳の息子と2歳の娘を連れて、八幡西図書館へ本を仮に行った。
その日は晴れていて少し汗ばむような気温だった。
普段は図書館へは自転車で行くと10分くらいで着くが、その日息子は自転車で図書館へ行くのが初めてのことで少し慎重に横断歩道を渡ったり、坂を下るのが怖くてなかなかブレーキを放さずにいたりしたため20分くらいかかった。
駐輪場に自転車を止め、娘をチャイルドシートから下ろし、図書館へ入った。
図書館の入り口の横に黒崎祇園山笠の笹山が展示してあるのだがその日は、暑さもあってそそくさと館内へ入った。
借りていた本を返し、その間に子供たちは次に借りる本を選びに奥へ入っていく。
私は本を返し終えた後、紙芝居コーナーのある窓側の席へ座る。
ちょうど窓の外に先ほどの笹山が見える。
絵本を2~3冊持った娘が寄って来て「これにする」と私の横に座る。
横で本を広げ「これよんで」と差し出された本を読んでいると途中で、「おっきい。おっきい」と言い出した。
何のことを言っているのか最初は分からなく、「なにがおっきいの?」と聞くと
「あれ」と窓の方を指さした。
「あれはね。山笠っていって、お祭りでみんなで引っ張るんよ」というと
「わたしも」と、そして続けざまに「いこっ」とっさに
「ちょっと待って。お兄ちゃん探してこないと」と
娘を静止して息子を探す。
息子はまだ、本を読んでいたので近くによって「かすみちゃんが下の山笠を見に行きたいって言ってるけど、ついてくる?」と聞くと
「ちょっと待って借りる本を取ってくる」と言って立ち上がり、本をもって戻ってきた。
受付で手続きを済ませ、お目当てだった本を借り、娘の手を引いて山笠の下まで歩いた。
「おっきいねー」と長女「どうやってひっぱるーん?」と聞くので私が説明しようとすると
「これはね。お祭りの時しか出したらいけんと。今は飾っとるだけ」と息子が説明をsh出した。
息子は5歳ごろから祭りの太鼓を叩きに行っていて、そこでおじいちゃんや近所のお兄ちゃんから太鼓の叩き方や祭りについていつも話を聞いていたので娘にとっては先生みたいなものだ。
娘も「はるくんするとー。すごーい」と感心しきっている様子。
図書館を出た後は隣の松並木で少しお散歩。
この松並木は長崎街道の一部で「曲がりの松並木」という。
かつて坂本龍馬もこの道を通って京都へ上ったのだと思うと感慨深い。
子供たちはそんな事はお構いなく、松ぼっくりを拾い、自分の方が大きいとか、自分の方がたくさん拾ったと自慢し合っている。
そこで、ふと思った事はこの何気ない日常のすばらしさである。
図書館は八幡西だけでなく各区にあり、子供のためのフロアや読み聞かせのイベントなどもあり子供を持つ親にとってはすごくありがたい。
そして、その図書館で山笠を見ながら、黒崎祇園太鼓の話をする息子がいて、自分が教えなくても娘に自信気に話せるほど教えてくれる近所の付き合いがある。
また、すぐ横の松並木では歴史ある場所でありながら家族の憩いの場や遊び場になっている。
子育てがしやすく、地域のつながりが子供を育て、繋がれた歴史を感じられるいい所だと感じた。
そして、私が松並木を「いい場所」と言うのにはもうひとつ理由がある。
昔、私や私の妹が生まれた病院が図書館のあった場所に立っていたのだ。
当時の記憶ではボロボロの病院があり松並木もおっかなく見えたのだが、今同じ場所に立ってみると、子供たちがはしゃいで走り回っている。
病院が無くなって図書館になったことも大きいのだろうが、この松並木を手入れして守ってきた地元の方や市の方のおかげなのだろうと思うと感謝しかない。
おかげで私たちは気持ちの良いお昼時を過ごせるのだから。
北九州市と言えば、、、、人によってはいろいろなイメージがあるだろうが私はこんなに住みやすい場所はないと思っている。
作者:岡田 将治さん