ワクワクする街、北九州【エッセイコンテスト 岡崎デザイン賞受賞作品】

エッセイコンテスト「第1回 キタキュースタイルカップ」 岡崎デザイン賞受賞作品

私にとって北九州は馴染みのない土地だった。
地名も観光名所も特産物も何も知らなかった。

唯一覚えていたのはスペースワールドとそこまでの道のり。
子供の頃、夏休みのたびに連れて行ってもらった思い出の場所だ。
今は跡形もなく消えてしまったけれど。
電車で通るたび、なんだか切なくなる。

北九州と言えば、成人式が派手だとか治安が悪いだとか怖い地域だと思っていた。
自分には一生関わりのないテレビで見かけるだけの世界だと思っていた。

そんな私が今北九州にいる。
人生の転機が示した場所が、たまたま北九州だった。
友達もいない街に来るのは少し不安だった。

でも北九州で過ごしてみて気付く。
「この街は面白い」
恐怖心よりもワクワクする好奇心のほうが強くなっている。

私は元々長崎の人間だ。
人口1万人ほどの田舎町で育った。
電車はなく、街に繰り出すのにはバスで1時間。
街といっても、廃れつつあるアーケード街なのだけれど。
だから小学生の頃は山とか川とか田んぼで遊んでいた。

北九州に来て、あの頃のように生き生きしているように感じる。
山に登ってみたり、海に行ってみたり、キャンプに出掛けてみたり…
子どもの頃に持っていた冒険心が目を覚ました。
私の故郷よりもはるかに都会であるけれど、なんだか居心地がいい。
なぜだろう?

買い物できる場所があって、欲しいものが欲しいときに手に入る環境。
電車やバス、モノレールでどこにでも行けちゃうアクセスの良さ。
都会の喧騒から離れることもできるけど、恋しくなったらすぐに近づける。
どちらにも振れることができる街だから、田舎しか知らなかった私にとってはいいとこどりの贅沢な暮らしなのだ。

若戸渡船、皿倉山、平尾台、響灘…
私は北九州のこういった自然を感じられる場所が好きだ。
水辺があって、緑豊かな街は居心地がいい。

初めて小倉駅を訪れたとき、モノレールが走っているなんて知らなかったから驚いた。
アーケード街も活気があって、祇園太鼓の音が響き渡っていた。
都会の中に突然現れる小倉城。
最初は小倉の迫力にびびってしまったけれど、賑やかなでユニークな街だなと思った。
北九州は街全体がこんな感じなのかと思いきや、他の地区はガラリと雰囲気が変わるからさらに惹きつけられた。

美味しいものもたくさん食べた。
焼きカレー、小倉の鉄なべ餃子、資さんうどん。
門司港レトロ中央広場で開催された豊前一粒牡蠣のイベントも最高だった。
美味しいものと一緒に人の温かみにも触れることができた。

北九州に来て一番嬉しかったことは到津の森公園での出来事だ。
ある冬の日、まだ北九州に来て1か月ほどだった私が一人で訪れた動物園。
目的なんてなかった。慣れない土地でのちょっとした冒険。
ワクワクしながら一眼レフを携えて写真を撮った。
大人のくせに恥ずかしげもなくゾウのエサやりに夢中になったりもした。

数日後、「第一回到津の森ちょこっと特派員」募集の知らせを知った。
特派員の内容は1日1回Twitterで到津の森公園で撮った写真に一言添えてツイートすること。
なんだか楽しそうな企画だなと思い、お気に入りの写真をしばらく毎日投稿した。

そして、特派員の活動が終了後、到津の森公園から連絡がきた。
「ひいろさんの作品がグット・ジョブ賞に入選いたしました」
一人で奮闘して撮影したゾウへのエサやりの写真が入選を果たした。
どうやらHPにて紹介され、写真展も開かれるらしい。
ちょっと照れくさかった。
でも、やっぱり嬉しくて写真展を見に行ってきた。

展示作品はどれも素敵な写真だった。
驚いたのは1つ1つの作品に丁寧なコメントが付けられていたこと。
飼育員さんの愛が溢れる素敵な動物園だなと思った。

しかも、入賞記念に私の撮った写真でオリジナル缶バッチを作ってくれていた。
ここまで凝ったものがいただけるとは思っていなかった。
本当に嬉しかった。
北九州に来て第一号となる大切な宝物だ。
到津の森公園、また今度遊びに行きます。

飼育員さんしかり、北九州の人はエネルギーに満ちた人が多いと思う。
キタキュウマンにバナナ姫ルナ。
ほかにもたくさん活躍している人はいるけれど、自分の力を信じてみんな輝いている。
何だか素敵な生き方だなと思う。
そんな姿を見ていると、こちらまでエネルギーが湧いてくる。

北九州は面白い街だから面白いことをやってみたくなる。
北九州で見つけた面白いことをみんなと共有したくなる。
北九州は人をワクワクさせてくれる街だ。

何も知らなかった頃の私とはすっかり変わって、今では地名も観光名所も特産物もスラスラいえる。

とまではさすがに行かないけれど、少しずつ北九州を知って愛着が生まれてきた。
まだまだ付き合いが短いから大したことは言えないのだけれど、いつか北九州を第2の故郷としてみんなに自慢できたらいいな。
これからも宜しく、北九州。

作者:ひいろさん
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