エッセイコンテスト「第1回 キタキュースタイルカップ」 入選作品
職場の廊下の窓から、小さな巣に5羽のツバメのひながいるのが見える。まだまだ、親鳥が餌を運んでくると餌をもらおうと黄色いくちばしでさかんに大きな声を出しているのだが、親鳥が離れると巣の端にしがみついて、さかんに羽ばたく練習をしている。
今年は、コロナのためか、例年なら時間を取ってまでしっかりと見ることもないツバメにもいつの間にか観察の目を向けている。鳥や動物をゆっくりと観察したのは、子どもたちと到津の森に行って以来だろうか。子どもが小さなときは、「あのサルが餌をキャッチした」とか、「この子ザルは集団に入りたくないのかな」とか、「キリンはあんなに長い舌で餌を食べるんだ」、「ゾウの鼻が近づいてきたあ」と驚きと楽しさで見ていた気がする。
私が子どものころ両親に連れられて到津動物園(遊園地)に行く日は、1年中で一番楽しみな日だった。ジェットコースターは苦手で、ゆっくりと乗ることのできる、メリーゴーランドやコーヒーカップ、観覧車などが好きだったが、中でも、飛行機が上がったり下がったりする乗り物が大好きだった。遊園地だけでなく動物園もあって、夢のような一日を過ごすことができた。
到津動物園(遊園地)がなくなると聞いた時は、もう自分も大きくなっていたので、残念というより、絶叫系のジェットコースターが主流になっている中、仕方ないことなのかなと思ってしまった。
その到津動物園(遊園地)が到津の森公園として復活することを知ったときは、「営業していくのは大丈夫かな」などと心配にもなった。しかし、そんな心配は杞憂に過ぎなくて、行ってみると本当に楽しかった。以前の檻の中にいる動物を見る動物園とは違い、できる限り自然のままの姿を見ることができる動物園になっていた。中でもライオンは、透明のガラスの仕切りがあるとはいえ、すごく近くにいて迫力を感じる。頭の上を歩いていくレッサーパンダ、直接餌をやることもできるキリンやゾウには、見るだけでは得られない、動物のすごさを感じられる。
親となった自分は、子どもたちと夜の動物園にも出かけたが、夜行性の動物たちやフクロウなど、そこには昼間とは違った動物本来の姿というべきなのか、神秘的な世界を感じることができた。
ところで、この到津の森公園にはほかにも今までの動物園にはない取り組みがある。その一つは、いろいろな動物の餌代を出して、その動物のオーナーになれるというものだ。子どもたちの通っていた保育所は、ゾウのオーナーだった。オーナーになれば、自分の子どものように、他の動物よりも一層の愛着を持って接する気持ちが生まれてくる。ゾウのオーナーなど夢にも思わないワクワクする経験だ。
それから、飼育員さん以外の方の活躍もすごい。たぶん行ってみた人しかわからないと思うが、動物のいる場所の近くでは案内などのボランティアの方が活躍されているが、皆さん笑顔で、なぜだろう、押しつけがましいと感じる気持ちや、偉そうに教えてやろうといった要らぬおせっかいのような気持ちを感じたことがない。営業利益、とかではなく、優しさを感じられる気がする。
動物を見るのではなく、感じることのできる到津の森公園が、こんなに近くにあるのは、北九州に住んでいる私たちの誇りだと思っている。
先日、今年就職した私の息子が、一人暮らしを始めたいと言ってきた。いつかは、息子も父として、到津の森公園を訪れる日が来るのだろう。その時は、小さいころに感じた喜びを伝えていってほしいと思う。
職場のツバメは今日もさかんに羽ばたく練習を繰り返している。明日には飛び立っているのかもしれない。明日もまたちょっと観察してみたいと思っている。
作者:松本 篤志さん