エッセイコンテスト「第1回 キタキュースタイルカップ」 入選作品
私は大学院の博士課程で理論物理の研究をしている大学院生である。北九州の思い出で真っ先に思い出すのが、子供の頃に行った「いのちのたび博物館」での経験である。私はいま理論物理、特に宇宙の成り立ちについての研究をしているが、自然科学に直接触れ、研究者を志すようになった研究の原点はこの経験であったと思っている。私が最初にこの博物館に行ったのは、2002年11月24日である。当時私は7歳で小学校2年であった。約18年も前で、そのときの自分の科学の知識がどの程度あったかは思い出すことはできないが、一般的な小学2年生と同じで、ほとんど何も知らなかったと思う。ただこの時見た恐竜の化石の迫力、中生代・白亜紀を再現したジオラマで動く恐竜を見た感動、キレイに箱に並べられている昆虫の化石を見たときの衝撃は今でも覚えている。身の回りの動物では到底説明できないような大きさの恐竜の骨を目の当たりにし、見たことのない昆虫たちの標本を見た私は完全に夢中になってしまった。私は博物館以外の恐竜や昆虫を知りたくなり、母親に頼んで恐竜図鑑や昆虫図鑑を買ってもらい、内容を覚えるほど熟読をした。図鑑の内容を読むだけでは飽き足らず、将来は恐竜博士や昆虫博士になり、新しい恐竜の化石を発見したり、新しい昆虫を発見して自分の名前の付けた昆虫を図鑑に載せたりしたいと考えるようになった。このとき「自分の知らないことを知る」、「未知のことを明らかにする」ことの楽しさに目覚めたのだと思う。
初めて「いのちのたびの博物館」を訪れてからは、定期的に親にお願いして連れて行ってもらい、恐竜図鑑や昆虫図鑑で覚えたことを博物館の中で見つけて毎回感動を重ねて行った。子供ながらにして得た知識を博物館で確認するという自然科学的なことをしていたので驚きである。何回も訪れる中でもやはり恐竜のインパクトは大きく、特に2005年に特別展として開催された「恐竜博2005」では世界最大のティラノサウルスの骨格標本であるSUE(スー)の展示が行われ、興奮の面持ちで博物館に向かったのを覚えている。
このように何かを知るという知的好奇心を満たす楽しみを最初に私に教えてくれた場所がこの「いのちのたび博物館」であり、今は興味の中心は恐竜や昆虫から宇宙へと移ってしまったが。根本にある知的好奇心を満たす楽しみは変わってはいない。その意味でこの「いのちのたび博物館」での経験は私の研究の原点と言って過言ではなく、20年近くたった今でもエッセイとして書けるほどに私の心に強烈な印象として残っている。なぜ初めて博物館を訪れた正確な日付まで覚えているのか不思議に思われたかもしれないが、これには理由がある。初めて博物館を訪れた日、展示されている恐竜の化石の躍動感に感動した私は、その興奮からミュージアムショップで売っているアンモナイトの化石をどうしても欲しくなり、親にねだって買ってもらった。家に帰ると、父親が化石を入れるのに適当なケースを見つけてくれて、父親が「将来見返した時のために」と日付などの情報をラベルにしてケースの裏につけてくれたのだ。そのアンモナイトは今も自分の部屋の見えるところに飾って置いてあり、その写真がこれである。
このエッセイを書くことを見越していたとしたら父親は超能力者かな、と思いながら改めて18年も経ったのだなと、そして恐竜や昆虫の研究ではないけれどもその頃憧れを抱いていた自然科学の研究をすることができていることをしみじみとすごいなと感じてしまった。このエッセイを書きながら久しぶりに小学生の頃に恐竜や昆虫のことを追いかけていたことを思い出し、研究の原点を再び感じることができとても良かった。北九州には他にも素晴らしい場所はあるが、私のナンバーワンはこの「いのちのたび博物館」である。懐かしさと、新たな感動を感じに久しぶりに訪れようと思う。
作者:gorikさん