エッセイコンテスト「第1回 キタキュースタイルカップ」 入選作品
私は、私の住んでいる町が大好きです。
近くを流れる川の流れにそって植えられている桜の木。
そこを行き交うたくさんの人。
いつでも柔らかく、温かい空気が流れているような。
私は、そんな町に住んでいます。
1列に連なって植えられている木に、淡い色の花が開いたとき、私の町に春が訪れます。
多くの人が、家族で、友達同士で、桜の木の下をお散歩します。
街全体に漂う幸せな空気と、あちこちから聞こえてくる楽しそうな話し声。
自然と軽くなっていく足取り。
一際強い風が吹き、青く澄んだ空に花びらが舞い上がりキラキラと光るのと同時に聞こえる歓声。
すれ違う人の誰もが、どこかそわそわしているような。
少しこそばゆく感じるこの町の春が私は大好きです。
暫くして桜の花が散り、少しずつ気温が上がってくると、新緑が芽吹き、私の町に夏がやってきます。
この町の夏は、のどかでゆとりのある春の景色とはうってかわって、賑やかで明るい景色になります。
半そで半ズボンのガキんちょたちが、何かを叫びながら走り回ったり、顔を水でびしゃびしゃにして自転車をかっ飛ばし、「すずしーい!!」と言ったり。
聞いているこちらまで楽しくなってくる元気いっぱいの空気が私の町に漂います。
まとわりついてくる熱気を含んだ空気と、汗でベタベタする肌。夏特有の鬱陶しさ。
でも、こんな日も悪くない。
自然とそう思えてくる。
そんなこの町の夏が私は大好きです。
鮮やかな緑色の葉が、赤や黄色に染まり出す頃、時折吹く冷たい風が私の町に秋を呼び込みます。
この時期になってくると、お散歩をする人は少しずつ減っていきます。
ですが、歩いている人たちはみんな、まるで内緒話でもするようにしながら、紅葉の道を歩きます。
カサカサとなる葉の音と、少し控えめな話し声。落ちてきた葉を踏むと聞こえるパリッという乾いた音。
心地よい静かさに少し物寂しくなってみたり。
夏が去るのを惜しみながらも、ほっと一息つくように穏やかな空気が、町に漂います。
時々、ご近所さん達と一緒に、枯れ葉を集めて、焼き芋することもあります。
肌寒く感じる外気に身震いしながら受け取った焼き芋と、周りに溢れる笑顔に、心を体もホクホクにあったまっていく。
私はそんなこの町の秋が大好きです。
町を彩っていた葉がすべて落ち、桜の木が裸んぼになったとき、木枯らしとともに、私の町に冬が吹き込みます。
さすがに、冬になると川の周りをお散歩する人はほとんど居なくなってしまいます。
冷たい風と、凍えるような寒さから逃げるように、外を歩いている人もせっかちに足を動かして、さっさと居なくなってしまいます。
だからといって、私の町から温かい空気が消えるわけではありません。
日が落ちるのが早くなり、周りが暗くなったとき、この町のいたるところで柔らかくあたたかい光が灯り始めます。
その光は、大きな枠から漏れ出てくることをあれば、小さな枠から漏れ出てくることもあります。
それは、この町に暖かい冬がきたことを教えてくれます。
このあかりの下で、家族と鍋をつついたり、炬燵でみかんを食べたりしているのが目に浮かびます。
せっかちに家に帰って行った人は、そうやって心地よい1日を終えようとしているのだろう。
たとえ直接感じることができなかったとしても、この町には確かに、私の大好きな空気が漂っています。
私はそんなこの町の冬が大好きです。
この町と一緒に巡る四季は、いつでも私達を柔らかく包み込んでくれます。
季節と人が、人と人が結びあっているこの町を、私は誇りに思っています。
心がふらついている時も、憂鬱な気分の時でも、この町の、桜の木の下の道を歩き終わる頃には、「 もう少しがんばってみようかな。」
そんな風に思えるようになります。
この町が、これから先もずっと、誰かの拠り所で、あたたかい場所でいてくれることを、心から願っています。
作者:ひろなさん