北九州市出身の落語家・林家きく麿師匠と講談師・田辺いちかさん インタビュー 11月22日(金)に小倉城庭園で「二人会」開催

2024年11月22日(金)19時より、北九州市立小倉城庭園 書院棟にて「林家きく麿・田辺いちか 二人会」が開催されます。(チケットは完売)

林家きく麿師匠は東筑高校卒業後、林家木久蔵(現・木久扇)師匠に弟子入りし、2010年に真打昇進。新宿末廣亭や上野鈴本演芸場などで主任を務める実力派であり、創作落語でも高い評価を受けています。

田辺いちかさんは八幡高校出身で、女優業を経て田辺一邑師匠に弟子入りし、2019年に二ツ目昇進。若者に伝統芸能を広める「渋谷らくご」にて、2020年に“楽しみな二つ目賞”、2022年には“渋谷らくご大賞 おもしろい二つ目賞”を受賞するなど、注目の講談師です。

今回は、「林家きく麿・田辺いちか 二人会」を控えたおふたりにお話をうかがいました。

林家きく麿師匠 インタビュー

(9月1日 cafe causaにてインタビュー)

ーー 本日はお疲れ様でした。北九州で演じることについて、特別な思いはありますか?

林家きく麿師匠: 地元の知っている情報をネタにして枕にすると、皆さんに喜んでもらえます。他の地方とは違った意味で学びになっています。

ーー 落語との出会いについて教えてください。

林家きく麿師匠: 元々コントや漫才の方が好きでしたが、一人でできるのが魅力だと思い、落語の道を選びました。23歳のときに木久扇師匠の弟子になりました。

ーー 東筑高校出身で芸人になられた方は珍しいのではないでしょうか?

林家きく麿師匠: 知名度は高くなくても、プロの芸人として活動している卒業生は何人かいます。女性芸人の吉住さんも東筑の卒業生ですね。個性的な人が多い学校だと思います。

ーー 文武両道を掲げている学校ですが、師匠は部活に入っていましたか?

林家きく麿師匠: 中学のときにバレー部だったので、高校でもバレー部に入りましたが、少し厳しすぎると感じ、1年生のときに辞めました。上下関係が厳しいところがあまり好きではないんです。噺家の世界も厳しさはありますが、緩いところは緩いんですよ。

ーー 落語の世界は厳しそうな印象を持っていました。

林家きく麿師匠: 半分洒落の世界なので(笑)しくじっても面白ければ「しょうがねえなあ」と大目に見てもらえるし、真剣に怒られたときも誠心誠意謝れば許してもらえます。厳しいことはありますが、自分が規律やルールを守っていれば問題ありませんし、体力的にきついこともありません。

ーー 「しくじり」の話が出ましたが、師匠の「しくじり」に関するエピソードはありますか?

林家きく麿師匠: 多々ありますね。仕事で新潟に行ったとき、久保田の『碧寿』を2本いただいて、木久扇師匠に「これあげちゃって」と言われたので、近くにいた三遊亭小遊三師匠に1本渡しました。小遊三師匠のマネージャーさんが受け取り、それを木久扇師匠に報告したところ、「僕は網棚に上げてって言ったんだよ。なんでいいお酒なのに人にあげちゃうんだよ」と怒られて(笑)。東京では『碧寿』は売っていないんです。仕方なく『萬寿』を買ってお詫びしましたが、前座の身分では大変な出費でした。

ーー 噺家になって良かったと思うことはありますか?

林家きく麿師匠: たくさんあります。人前でお話しして笑ってもらえるのが一番嬉しいですね。新作落語を演じているので、自分で作った創作落語をお客さんに披露し、それが受けると、自分が面白いと思ったことが皆さんに通じて面白いと感じてくれているんだなと実感します。それが大爆笑になったときの喜びは、格別ですね。古典落語でもお客さんが笑ってくれるのは嬉しいですが、自分の感性を表現したものが笑ってもらえるのは、喜びが数倍違います。

また、学校や老人施設の慰問に行くのですが、特に外に出られないお年寄りたちが落語を聞いて「嬉しかった」「面白かった」と言ってくれるのを聞くと、人を喜ばせることができるこの仕事をできることが、本当にありがたいと感じます。

ーー 新作落語を作る際のアイデアはどのように考えていますか?

林家きく麿師匠: 普段の出来事から膨らませることが多いですね。例えば、ワンシチュエーションの中で「これを話にしたら面白いな」と思うことをどんどん膨らませていきます。今日の噺は、公園で見かけたセミの鳴き真似をネタにしたものです。SFチックにせず、一般社会の中にいそうな人をネタにしています。

ーー 今後、北九州市で取り組んでいきたいことはありますか?

林家きく麿師匠: 地元の小学生たちに落語を聞いてもらいたいですね。落語を聞いたことがないまま大人になるのと、子どものときに落語を聞いて面白かったと感じるのでは全く違うと思います。だから、一度聞いてもらって「落語って面白かったな」と思ってもらえるように、印象に残したいと思っています。落語はすべて“イメージ”の世界なので、想像すること、人の話を聞くことで「面白い」と思える感性を、子どもたちに持ってもらいたいですね。

ーー 11月22日には小倉城庭園での公演を控えています。

林家きく麿師匠: 小倉城庭園の池と木々の美しさは素晴らしいので、その良さを知ってほしいですね。今回は講談師の田辺いちかさんとの二人会です。いちかさんが八幡高校、私が東筑高校出身という地元のふたりでこのような会ができるのは、とても嬉しく思います。


田辺いちかさん インタビュー

(9月23日 小倉城庭園にてインタビュー)

ーー 本日はお疲れ様でした。九州で講談を披露する機会は多いのでしょうか?

田辺いちかさん: 講談は落語に比べて東京以外で披露する機会が多くありません。北九州の皆さんをはじめ、講談を見る機会が少ない地域の皆さんにも、少しでも楽しんでいただけるよう工夫を重ねています。 お客様の反応を見ながら演目を選んでいますし、落語家の方と一緒のときは、その方の高座を引き立てられるよう演目を組み立てるようにしています。

ーー 講談との出会いについて教えていただけますか?

田辺いちかさん: 私は八幡高校の演劇部で芝居を始めましたが、生活の糧を考えて文学の道を志し、大学に進学しました。大学でも演劇部で活動し、声優事務所にも所属していました。そんな中、友人の劇団のワークショップで、後に師匠となる田辺一邑(いちゆう)と出会いました。

みんなが普通に台本を読み合わせている中で、一邑師匠だけが独特のリズムとテンポで読んでいて、小柄な女性なのに不思議な存在感を放っていました。打ち上げの場で話を聞くと講談をされているとのことで、そこで講談に興味を持ちました。

北九州で育った私は、講談に触れる機会がほとんどありませんでした。実際に講談を見に行ってみると、歴史物語を一人で演じていて、女性が侍をはじめさまざまな役を演じ分けるのに、全く違和感がありませんでした。語られる内容も素直で真摯で、「正直者はきっといいことがある」といった、まっすぐな思いを今の時代にも真剣に届けている姿に心を打たれました。

一邑師匠の会に毎月のように通い続け、顔を覚えていただいているうちに飲み会にも誘っていただくようになり、そこで弟子入りをお願いすることができました。

ーー 修業時代はどのようなことが大変でしたか?

田辺いちかさん: 私はお芝居の世界にいた経験から、自分から積極的に動いてしまう傾向がありましたが、「そんな余計なことは今はしなくていい」と諭されました。芸の道は高校卒業後すぐに入門する方がスムーズなようです。社会人経験があると、それが逆に邪魔になることもありました。

例えば、「前座は歯を見せるな」と言われ、私は好意でにこにこしていただけなのに大目玉を食らうこともありました。新しい世界の作法を学ぶのは簡単ではありませんでしたね。

ーー お客様の反応で印象に残っているエピソードはありますか?

田辺いちかさん: あるお客様が「落語は笑える面白さ、講談はわくわくする面白さ」とおっしゃってくださいました。講談を通して、新しい世界を知る楽しさや、聞いていて胸が熱くなるような物語を、これからもたくさんお届けしていきたいと思っています。

いま、高座に上がることが本当に楽しみです。自分で作品を作り、演出を考え、全ての役を一人で演じられる。全ては自分の責任ですから、お客様の反応も全て自分次第です。でも、それがかえって清々しいんです。「全て自分の責任」という心の安らかさがあります。

ーー 今後の展望についてお聞かせください。

田辺いちかさん: 講談をもっと身近な芸能として広めていきたいですね。多くの方に生の講談を体験していただき、その魅力を感じてもらえたらと思います。

講談は、落語に比べてまだまだ知名度が低く、演者の数も少ないんです。落語家が約900人いるのに対し、講談師は90人程度です。そして、ほとんどの方が講談を生で聞いたことがないという状況です。ただ、最近は少しずつブームの兆しも見えてきて、若いお客様も増えています。落語のように講談が親しまれるように、さまざまな場所で高座に上がり、面白さを伝えていくことが私の生涯をかけた目標です。

ーー 11月22日の公演への意気込みをお願いします。

田辺いちかさん: ご一緒させていただく林家きく麿師匠は、北九州の先輩として大変お世話になっている方です。師匠のおかげで多くのご縁もいただいています。

師匠の高座が一層引き立つような講談を心がけながら、講談の魅力もしっかりとお伝えしたいと思います。ぜひ会場に足をお運びいただき、映像や音源では味わえない、生の講談の醍醐味を感じていただけたら嬉しいです。