北九州市の小6・113人が起業家を体験 アントレプレナーシップ教育プログラム、清水小で令和7年度最終発表会

北九州市が令和5年度から実施している「アントレプレナーシップ教育プログラム」は令和7年度、市内6校で展開。2月19日に行われた北九州市立清水小学校(小倉北区清水)での発表会をもって、令和7年度の全日程が締めくくられました。

同プログラムは、実際に活躍するスタートアップ起業家を学校に招き、交流を図るほか、グループに分かれて、課題発見から、解決策となるアイデアを考え、プレゼンで発表するまでを体験するパッケージ型の起業家教育です。清水小学校では6年生113人を対象に、2月3日の起業家講話を皮切りに4回にわたるグループワークで課題抽出・事業計画を練り上げ、この日の集大成を迎えました。

「面倒くさい」「困った」が、ビジネスのタネに

作りこまれたプレゼン資料

12チームが発表したアイデアはいずれも、日常生活の中でリアルに感じた課題から生まれたものでした。冷蔵庫の食材を撮影するだけでAIが献立を提案するアプリ、水を使わずに手を洗える粉末クリーナー、お風呂に入るとポイントが貯まり温泉の抽選券がもらえる仕組み、海のゴミを自動回収する掃除機、転売を防止するAIアプリ、充電式カイロとポケットWi-Fiを合体させた商品など、発想の幅はかなり広いものでした。

発表はビジネスコンテスト形式で行われ、起業家3人がそれぞれのアイデアを審査。実際に融資が行われるわけではありませんが、起業家が「いくら投資したいか」という形で評価額を提示し、各チームが目標額に対してどれだけ獲得できるかを競いました。

審査員の前に積まれた10,000円札(おもちゃです)

起業家が本音でフィードバック

審査を担当したのは、ロボット開発を手掛ける今坂幸介さん(株式会社Kobot)、日本伝統文化を海外に発信する田仲未佳さん(株式会社DanA Creations)、GZキャピタル株式会社社長執行役員の大屋喬史さんの3人。

資料を読む今坂さん(写真左)と児童たちの発表にコメントする田仲さん

起業家たちのコメントは、アイデアへの共感と厳しい指摘が入り交じるものでした。

介護が必要な高齢者向けの自動入浴マシンを提案したチームに対し、大屋さんは「介護の現場で活用できれば素晴らしいアイデア。私自身も忙しくてお風呂に入れないときがあるので、時間を短縮してマシンが自動で入れてくれたらと思った」と共感を示しつつ、「人を入れるマシンとなると安全面など考えないといけないことは山ほどある」と現実の壁も伝えました。田仲さんは「私のおじいちゃんが今ちょうど介護が必要な状況で、このマシンがあったらいいなと個人的に思った」と語り、高齢者の収入面も踏まえた価格設計の見直しを促しました。

献立提案アプリを発表したチームには、3人全員が「ぜひ使いたい」と口をそろえ、満額の評価額を提示しました。今坂さんは「料理をする方なので、こういうアプリができたらいいなと思っている」と評価額を提示。田仲さんも「献立を考えるのは億劫なので、このアプリがあったらいいなと思った。遠隔で冷蔵庫の中を確認しながら買い物もできたらさらにいい」と満額を提示し、追加機能のアイデアまで贈りました。大屋さんは「今日何を作ろう、明日何を食べようと悩んでいる人はすごく多い。私自身もその一人」として満額を提示しました。

転売防止AIアプリのチームには、大屋さんが「今日10チームほどのプレゼンを聞いた中で一番プレゼンテーションが上手だった。チームとしてのまとまりが素晴らしい」と称え、APIなどの専門用語を使いこなした児童には「将来はエンジニアですね」と目を細めました。

発表する児童たち

水なし手洗い粉を提案したチームに対し、田仲さんは「冬に洗いすぎて手が荒れる人にも優しい商品だと思う」と評価しつつ、「ウェットティッシュやアルコール消毒との差別化をもう少し伝えられたらよかった」とアドバイス。今坂さんは「材料にオリーブ油と片栗粉を使うなら、リサイクルされた廃油で何とかできないか。そういう発想があれば満額だった」と環境面からさらなる工夫を求めました。

海のゴミを自動回収する掃除機を提案したチームには、田仲さんが「環境問題は子孫の未来にかかっていること。ゴミを回収してリサイクルし文房具などを販売するコンセプトもいい」と応援の気持ちを示しつつ、収益モデルの強化を求めました。今坂さんは「技術を用いた考え方はとてもいい。ただ工場より海を掃除する船そのものにお金をかけた方がいい」とお金の使い方に助言をしました。

発表を聞く児童たち

こうした審査の場面では、アイデアへの共感や「自分も使いたい」という言葉が随所に上がる一方、「広告費が計上されていない」「既存サービスとの差別化をもっと明確に」「損益計算を組み立て直して」といった指摘も容赦なく飛びました。子どもたちのアイデアを本物のビジネスとして向き合う起業家たちの姿勢が、発表会全体を通じて貫かれていました。

最優秀チームが決定

発表会の最後には、評価額の達成率をもとに最優秀チームが発表されました。最優秀チームに輝いたのは献立提案アプリを開発したチームで、「データに基づいた根拠づけ、具体的なアプリの紹介、完成図まで資料に盛り込まれていた」点が高く評価されたものでした。

最優秀チーム「株式会社田辺」の発表の模様

社長役を務めた児童は「みんなのおかげです」と仲間に感謝を伝え、チームメンバーは「気持ちよかったです」と晴れやかな表情を見せました。

最優秀チーム「株式会社田辺」の児童たち

今坂さんは「それぞれいいところがたくさんあったので、今考えただけではなく続けて考えていってほしい。新しいアイデアも発想もどんどん考えて、メモして、続けていただきたい」と子どもたちにエールを送りました。

起業家という働き方があることを知り、実際に課題を考え、大人の前で発表した5日間。会社を起こすという選択肢が、113人にとってより身近なものになったのではないでしょうか。