ーーまず、本作「エブリ・ブリリアント・シング」の概要についてお聞かせいただけますか?物語や佐藤さんの役柄、「イマーシブシアター」と呼ばれる演出についてご紹介をお願いします。
「エブリ・ブリリアント・シング」は、一人の男性の人生を語っていくお芝居で、その日劇場に足を運んでくださったお客様にも少しお手伝いいただき、皆様とともに物語を紡いで最後まで駆け抜ける作品です。
お手伝いいただく内容として、例えば、この作品では、番号入りの小さなカードを使います。お芝居の中で僕が「1」と言ったら「1番 アイスクリーム」と書いてあるカードを持っているお客様に「アイスクリーム」と読み上げてもらったり、僕が「お父さんの役をやってもらってもいいですか?」などとお願いをさせていただいたりします。
「生と死」という重いテーマを扱う作品ですが、皆さんと明るく前向きに一緒に物語を紡いでいくことによって、ヘビーになり過ぎないで温かい気持ちの中で共有できたら嬉しいです。
2020年に初演を行って感じたのは、その日集まったお客様によって空気もガラッと変わり、回ごとに異なる“特別な瞬間”があるということです。劇場舞台の醍醐味であるその日その場所に集まった人しか味わうことのできない、特別な時間をより濃く感じていただけると思います。
ーー2020年の初演の際に感じた手応えや印象的なエピソードはありますか?
また今回、佐藤さんが再演を熱望されていたとうかがったんですが、再演への想いもお聞かせいただけると幸いです。
初演の直前にアメリカのユタ州で上演していた「エブリ・ブリリアント・シング」を観に行ってきました。
お芝居を観ている間、演者目線ではなく、一観客としてのめり込んで見ている自分がいたんです。
「重いテーマを扱いながらも、こんなに温かい気持ちで劇場を後にできるんだ」と思いました。今までに味わったことがないような、劇場全体が幸せに包まれた本当に素晴らしい時間だったんです。
中でも、カーテンコールの際、演者に対してだけでなく、その場に居合わせた皆がそれぞれに拍手をして、たたえ合う光景はこれまでにない観劇体験で本当に感動しました。
そのときに、日本の劇場でもお客様にあの観劇体験を味わってもらいたいなと強く感じ、その思いをアメリカから持ち帰ってきました。
とはいえ、やはり“参加型”のお芝居となると、アメリカと日本では観客の反応に少なからず違いがあるのではないか、参加することに消極的な方も少なくないだろうなと思っていたんです。
でも実際に幕が上がると、皆さん僕が持って行きたい方向に向かうよう協力してくれたんです。初見であっても、真摯に向き合って真面目に力を貸してくださり、とても感動しました。
一人芝居でありながら、その日集まってくださったお客様と紡いでいく物語だなと、改めて実感しました。
僕は「エブリ・ブリリアント・シング」を通して、まるで目の前で花がパーッと開いていくような瞬間を何度も経験しました。それはこの作品でしか感じたことがない経験です。本当に素晴らしい、一生ものの宝に出会ったなと感じています。
前回は新型コロナウイルスの影響で最後の高知公演ができなかったので、そういった意味でもタイミングが整えば、すぐにでも再演したいなとずっと願っていました。
そして可能な限り、定期的にこの作品をやり続けていきたいと思っています。
ーーこの作品は「お客さんと一緒に作り上げる舞台」とのことですが、お話をうかがっていると、その日その日で雰囲気や演じられることが変わってくるのかなと感じました。公演前の稽古はどのように行うんでしょうか?
まさにおっしゃる通りで、ひとりでは稽古できないんですよ。なので、早い段階から、稽古場に観客として20人から30人ぐらいの方に参加してもらいました。
そうして稽古を重ねていく中で、いろんなパターンがあることが分かり経験は増えていくんですが、何度稽古しても、よしこれでいける、という確かな形を決めることはできないんですよね。実際に同じパターンは二度とこないんです。
でも、観客を入れて稽古をすることで、どんなことがあったとしても絶対にぶれずにお客様を引っ張って前に進んでいく、という覚悟を決めることができました。
ーーはじめて「エブリ・ブリリアント・シング」を演じたときの感想をお聞かせいただけますか?
すごく緊張しました。
正直、初めてお客様の前で演じたときにどんなことを感じたか覚えていないんです。演じるだけで必死でした。
僕がやるべきことは、どんなことがあっても絶対にお客様を不安にさせないことと、自信を持って物語を前にすすめていくことなので、そこだけに集中して必死に演じていたような気がします。
また、僕があまりイメージを固めすぎるとお客様からのリアクションに対応できないことがあるので、少し怖いんですがステージごとにリセットして演じています。
毎回すごく幸せな時間を過ごしながら、一方で毎回怖さも感じています。緊張してお腹が痛くなるなんてこともしょっちゅうありました(笑)
ーー今回は北九州での公演ですが、北九州という街に対してどのような印象をお持ちでしょうか?
大好きな街ですね。
以前、「THE LAST MESSAGE 海猿」という映画で、長期ロケをしたんです。
北九州の皆さんは温かく迎えてくれ、大がかりな撮影にも協力してくださいました。ご飯も美味しいですし、めちゃくちゃ好きな街です。
ーー印象に残っている食べ物はありますか?
鉄鍋餃子が美味しかったです。長期間滞在していたので、お寿司やカレー、ラーメンなど美味しいものをいろいろ食べました。
長い期間滞在してとてもお世話になったので、北九州という街が思い出の場所になりました。
ーー映像のイメージが強い佐藤さんですが、映像ではなく舞台で演じる楽しさをおうかがいできますか?
まさに今自分が考えていることにピンポイントの質問です。
ドラマや映画でいろんな役を演じさせてもらっているので、そのイメージが強いかもしれませんが、そもそも僕のデビューは舞台なんです。今こういう時代に舞台でお客様と直接向き合い、その場に集まった人だけが味わえる、この小さな喜びを作り上げることがすごく贅沢だなと思うようになりました。こういう喜びをこれからはより大事にしていきたいです。
人と会いづらい時代ではありますが、今後はより温度感を感じるところに身を置いていきたいと思います。今回の「エブリ・ブリリアント・シング」でもたくさんの温かい出会いがありますようにと願っています。
みなさんに楽しんでいただけるように頑張りますので、ぜひ会場に足をお運びください。
日時
2023年9月30日(土)、10月1日(日)各日 14:00 開演
会場
J:COM北九州芸術劇場 中劇場(舞台上客席)
作
ダンカン・マクミラン、ジョニー・ドナヒュー
翻訳・演出
上田一豪
出演
佐藤隆太
料金
一般 4,500 円、ユース 3,000 円(25 歳以下、要身分証提示)、ティーンズ 1,500 円(13~19 歳、要身分証提示、枚数限定)
※全席自由 ※未就学児入場不可(託児あり/要事前予約)
チケット
北九州芸術劇場(窓口/オンライン/電話 093-562-8435 ※土日祝除く 12:00~17:00)
響ホール事務室、チケットぴあ、ローソンチケット
※8月6日(日)より発売開始
お問い合わせ
J:COM北九州芸術劇場 093-562-2655(10:00~18:00)