エッセイコンテスト「第1回 キタキュースタイルカップ」 入選作品
北九州に縁もゆかりもない私がここに移り住んだのは10年前のことでした。その当時の北九州に対するイメージは、「九州の最北端に位置する街」という貧弱なものでした。
初めての出産妊娠に戸惑いながらも私は里帰り出産をせず、北九州で産むことを決めました。なぜなら田舎の実家に帰るよりもNICU(新生児集中治療管理室)が近くにある北九州の方が安心して出産できると考えたからです。なせなら私が産まれた時危険状態で産院から救急車で個NICUのある病院に搬送されたのですが、なんせ田舎だったので救急車でも30分かかってしまったのです。
対して今住んでいる北九州では近場に2つもNICUがあります。出産時にトラブルが発生してもそれらへ迅速に移動できるという点は、「何事もなければいい、でも、もし子どもに何かあったらどうしよう?」という私の不安を解消してくれるには十分でした。幸い子どもはNICUのお世話になることもなく、無事産まれたので、結果としてそれらの心配は杞憂でしたが。
出産してから驚いたのが、北九州でベビーカーをしながら歩いていると色んな人に声をかけられるということです。特に子育てが終わった世代の人達は、色んなアドバイスを通りすがりにしてくれるのです。
「今何歳?まあ1歳?今大変でしょう?あと3年経ったらきっと楽になるからね!」
親身になってかけてくれる言葉が本当にありがたかったです。里帰りしなかった分、街ゆく人の温かい言葉はまるで母親の代わりのように聞こえ、自分の心に素直に入って来ました。当時は車がなかったため、バス移動が多かったのですが、子どもを乗せたベビーカーごと持ち上げてバスに乗り込む私を不憫に思ったのか、運転士の方がわざわざ降りて来てくださり持ち上げを手伝ってくれたことがありました。もちろん全員の運転士さんがそうしてくれた訳ではないのですが、助けたいなって気持ちで見ていてくれた方もきっと他にもいるとは思います。
そんな風に北九州で子どもを連れているとよく声をかけられたり構ってもらえるので、実家に帰る時は内心ワクワクしていました。
「実家の方が田舎だから、さぞかし声をかけられるんだろうなぁ」
ところが、思惑とは裏腹に北九州とは全く違う反応がそこには待っていたのです!赤ちゃんを連れているからといって声をかけられることは全くなく、街行く人は無関心でいてくれました。意表をつかれた私は思いました。「あぁ、北九州の人が子供連れに優しいんだな」と。
子供が歩き始めてからは、子育て環境の良さにも助けられました。室内外問わず、有料無料問わず元気のもりやこどもの館、各区に点在する児童館、大きな公園から小さな公園まで多種多様な遊び場が北九州には揃っていたのです。毎日、「今日はどこに行こうかな?」と迷ってしまう。そんな贅沢な環境で子育てをしてさせてもらいました。対して、実家に帰ると自然は多いのかもしれないけれども、子供連れで行く無料スペースも種類が少なく、同じところばかりで、ちょっぴり物足りない気がします。遊具のある大規模公園も近くには1つしかなく、他の公園に行くとなるとものすごく遠出をしなきゃいけないので億劫になってしまいます。北九州に住んでいると当たり前だと思ってたことが、他の地域に行ってみて当たり前ではないということに、気づくことが出来ました。
北九州に住んで10年弱と、まだまだ日の浅い私ですが、市外から移り住んできた者としての視点で見るとずっと住んでいる人からにはわからないようなことが沢山あるのではないでしょうか。
たまたま就職で北九州に移り住んできた私。最初から結婚や出産まで見据えた移住というではありませんでした。しかし、子どもに温かい街・北九州でこれからも子育てしていける環境がとてもありがたく幸せに思う日々です
作者:古賀 幸さん