飛ぶ劇場の俳優・德岡希和さんは、芝居が上手くなりたい理由をこう話します。
「私が下手だったら、『あの役者さんちょっと下手だったね』って、物語のノイズになっちゃうじゃないですか」
仕事は、飛ぶ劇場の公演や外部から声がかかった舞台のときに休めるかどうかを基準に選び、劇場へ通う交通費なども働いてまかなっています。「演劇がなかったら、私はどう生きていたんだろうって思うぐらい重要」。德岡さんにとって演劇は、生活の基盤です。
高校時代に演劇を始め、19歳で飛ぶ劇場へ。現在は入団7年目です。

声優への憧れから芝居の世界へ
芝居に興味を持ったきっかけは、小学生のころに見たアニメでした。画面の中のキャラクターに、声だけで感情や芝居を与える声優の仕事を知り、「芝居にはいろいろな形があるんだ」と感じたといいます。
そのまま芝居への憧れを持ち続け、高校では演劇部に入部しました。
「ずっとやってみたかった芝居をやってみよう」
德岡さん自身が演じる側になったのは、そこからでした。
演劇から一度離れるも、飛ぶ劇場へ
高校卒業後はいったん演劇から離れましたが、その後、北九州芸術劇場で行われていた20代向けの企画への参加などを通じて、再び演劇との距離が近くなりました。そこで飛ぶ劇場という存在も身近になっていきました。
德岡さんが飛ぶ劇場を選んだ理由の一つが、同年代の俳優がいなかったことでした。若い俳優が集まる環境ではなく、長く芝居を続けてきた人たちの中に入り、その経験から学びたいと考えました。
「年数を積んだ方から、いろんな経験や実体験を伴った芝居に関するものを、より吸収できるんじゃないかなと思って。ベテランぞろいのところがいいと思って入りました」
入団当初は「すごく怖かった」。それでも、そこに食らいついていこうと頑張れる自分がいたといいます。緊張よりやりがいの方が大きく、「初年度はすごく楽しかった」と振り返ります。
分からないことを自分から聞き、人の芝居を見て、取り入れられるものを探す。飛ぶ劇場で活動する中で、人とのコミュニケーションにも以前ほど臆さなくなったと德岡さんは話します。
物語のノイズになりたくない
芝居を続ける原動力の一つは、もっと上手くなりたいという思いです。
德岡さんの「上手くなりたい」には、見た人に「このお芝居、すごく良かった」と思ってもらいたいという気持ちも含まれています。冒頭の「物語のノイズ」という言葉も、この話の中で出てきたものです。
「飛ぶ劇場の邪魔をしたくない」という思いも、先輩たちについていきたいという気持ちにつながっていたそうです。
稽古場で感じる演劇の面白さ

德岡さんが演劇をしていて特に楽しいと感じるのは、稽古場だといいます。本番で観客が見る芝居は、稽古の中でさまざまな方法を試した末に残ったものです。舞台には出なかった表現や、途中で変更された芝居も数多くあります。
「稽古場って、いろんなものを試せる時間なので」
その過程に立ち会えることが、德岡さんにとっての稽古場の面白さです。
「稽古場で起こることを見られるのは、本当にすごく楽しい。『今、演劇してるな』って気持ちになります」
一方で、本番とは別の意味で緊張するのが小屋入りの前日だそうです。忘れ物はないか、劇場に入ってから何をするのか、楽屋周りで必要なことはないか。そうしたことまで気になるといいます。
良くも悪くも真面目
德岡さんが周囲からよく言われるのは、「良くも悪くも真面目」。
自分でも「0か100か」で考えがちなところがあり、少しでも100に届かないと「もうできない」と受け止めてしまうことがあるといいます。
「半分ぐらいできていたとしても、それを0だと思ってへこんじゃう」
「自分のことを低く見すぎ」「バランスよく考えなさい」と言われることもあるそうです。
最近の楽しみは県外ナンバー探し
最近ハマっているのは、車のナンバープレートを見ることです。全国のナンバープレートのチェックリストを作り、散歩中や母親の車の助手席から県外ナンバーを探しています。
きっかけは、母親と工業地帯のほうへ出かけたときの会話でした。トラックには県外ナンバーが多いこと、門司港の近くではフェリーで運ばれてくるトラックの大阪ナンバーが多いこと、転勤族が多い地域では県外ナンバーが目立つこと。そんな話をするうちに、ナンバープレートにはそこで暮らす人たちの生活が表れているのかもしれない、と思ったといいます。
「ちゃんとナンバープレートを見るようにしたら、ここってこういう場所なんだなっていうのがわかってくるのかもなって」
取材当日も、歩いてくる途中で福島ナンバーを見つけたばかりでした。
最近印象に残っているのは、愛知県北部の「尾張小牧」。母親と二人で見つけ、思わず声を上げたそうです。
「一番熱かったですね」
九州は、奄美を除いてすべて確認済みです。
新作で見てほしい「役者が作る人間」

德岡さんが出演する飛ぶ劇場の新作が、『誰が殺したペッコロタンゼ』です。
作品には、対立するA町とB町の人々が登場します。德岡さんが演じるのは、その土地を訪れる大学生の女性。「まっすぐなところ」に自分自身との共通点を感じているといいます。
「ちゃんと人と向き合おうとしているところ。自分の正しさをまっすぐ貫いているところは、ちょっと似ているのかもしれない」
初めて飛ぶ劇場を見る人に注目してほしいのは、設定だけではありません。登場人物が何を考え、何を目的に行動しているのか。それを俳優一人ひとりが考え、舞台上に人物をつくっていきます。
「とにかく、役者が作る『人間』を見てほしいです」
この言葉は、同日に同じ質問を受けた泊篤志代表の、目の前で俳優が演じるリアリティを楽しんでもらいたいという話とも重なります。
いつか自分の脚本で公演を
德岡さんには、今後やってみたいことがあるといいます。一つは、YouTubeなどで自分が話すコンテンツを発信することです。
「私、おしゃべりがすごく好きなので」
そしてもう一つは、自分で脚本を書き、公演することです。
「自分で脚本をちゃんと書いて世に出す。ちゃんと自分で公演をしてみたい」
飛ぶ劇場に入り7年。経験のある先輩たちの中で芝居を続け、稽古を重ねてきました。
その先には、自分で作品をつくり、届けたいという思いもあります。
飛ぶ劇場 Vol.49『誰が殺したペッコロタンゼ』
作・演出:泊篤志
出演:桑島寿彦、内山ナオミ、寺田剛史、木村健二、葉山太司、宇都宮せいや、佐藤恵美香、德岡希和、乗岡秀行、木下遥斗、山根夕季
日替わり出演:23日(金)中原彬登/24日(土)脇内圭介/25日(日)太田克宜
日時:2026年10月23日(金)15:00★/19:00、24日(土)14:00/18:00★、25日(日)14:00 ★アフターイベントあり
会場:J:COM北九州芸術劇場 小劇場(北九州市小倉北区室町1丁目1-1-11 6F)
料金:一般前売り3,500円、学生2,000円、高校生以下1,000円(当日券は200円増)
※学生・高校生以下は要学生証提示。日時指定・全席自由。未就学児は入場不可。
チケット:こりっちチケット https://ticket.corich.jp/apply/470906/
北九州芸術劇場 Q-station(窓口:リバーウォーク北九州5F/オンライン:https://q-geki.jp/events/2026/tobugekijyou49/ /電話:093-562-8435 12:00〜17:00 土日祝除く)
託児:有料・定員あり・要予約(093-562-2655、公演初日の7日前まで受付)
問い合わせ:info@tobugeki.com

