喫茶店に住むネコ【エッセイコンテスト 入選作品】

エッセイコンテスト「第1回 キタキュースタイルカップ」 入選作品

コーヒーの香り。心地よい音楽。海が見えるカウンター。そこに座る、ヒト。
ふいにその背中が振り向き、私と目があった。

「あら。ネコちゃん。」

微笑むヒトに、私は、「こんにちは。」と心の中で挨拶をして、静かに目を閉じた。

ここは、若松南海岸通りにある小さなお店、ねこのじterasu。海が見えるお店だ。
いつの頃からか、私はここに住むようになった。みんなには、「ふぐ子」と呼ばれている。この前、名前の由来をボスに聞いたら、
「最初の頃、ふぐふぐしていたから。」
とワケの分からない理由を言われたけど、意外にしっくりきて、気に入っている。

お気に入りの場所は、喫茶店の片隅にある古いソファー。店内を見渡せるこの場所で、私はだいたいの時間を過ごす。ここにいると、みんなの様子が見られて面白い。
ヒトが座って、何か言う。すると、しばらくしてボスが、おいしそうなものを運んでくる。私が一番気になっているのは、クリームソーダ。緑、青、季節によっては、ピンクや黄色。光にあたってキラキラと、それはとても綺麗で、わくわくする。みんなを笑顔にする飲み物だ。私の大好物のちゅーるとどっちが美味しいのか、いつか試してみたいと密かに思っている。

喫茶店の奥には、雑貨屋。ニコがいつも何かを作っている。ドライフラワーを使ったリースや、アクセサリー。時には、小さなネコやクマ。トントン、カタカタ・・・小さく響く音。私は、その様子を見ているのが好きだ。

のんびり静かに流れる時間。心地良くて、ついウトウト・・・。でも、寝てばかりはいられない。店内のパトロールも私の大切な日課の一つだから。なのに、心外なのは、私が寝てばかりだと誤解されていること。「いいねー。いつも寝てて。」なんて言われるけど、決してそんなことはありません!

お店には、2Fがあって、喫茶店の奥の青い階段を上ると、雑貨屋が二つ。
向かって右は、ツムギのお店。いろんな色の糸で、小さな小さな靴を編んでいる。まめ靴っていうらしい。私にも履けないくらいのサイズだ。ヒトは、その小さな靴を、耳につけたりしてるけど、靴って、本当は足に履くものじゃないかしら、と私は不思議に思っている。
その隣は、アオのお店。カメラがいっぱい置いてある。写真を撮るヒトで、私はよくモデルを頼まれる。要求に応えて、カメラ目線をきめたり、時には、帽子をかぶったり。私自身、なかなかのモデルっぷりだと自負している。ヒトにも、可愛いってよく言われるし、まんざらでもない。

その奥にも部屋がある。打ち合わせルーム。実はここのソファーも私のお気に入り。
大きな窓がいっぱいあって、海と赤い橋が見える。若戸大橋というそうだ。晴れた日は、特に綺麗で、上がってきたヒトたちは歓声をあげる。
青い海、青い空、そして、赤い橋。そこにいろんな大きさの船が、プカプカ通る。どこから来たのかな?なんて想像したり。最高の眺めじゃないかしら。
お天気のいい日は、外にもパトロールへ行く。ときおり出会うネコ友達に挨拶をしたり、ヒトに写真を撮られたりしながら、てくてく。てくてく。味のある壁や、赤レンガのおしゃれな建物。きっと、ずっとずっと前からあるものだと思う。
春には、ナンジャモンジャの木が白い小さな花をたくさんつける。それは、ヒラヒラと風に舞って、雪のようにも見える。木の根元では、スズメたちが、砂浴びをしている。砂にまみれて、嫌じゃないのかなぁ?今度、聞いてみよう。
お天気が良すぎると、どうにも眠くなるので、そんな時は、お店の前でひとやすみ。
さぁ、今日のパトロールは、終わり。今日も、異常なし!
ヒトもネコものんびり優しいこの街が、私は大好きだ。

作者:安藤 真澄さん