高校生演劇部員が挑む3日間 北九州芸術劇場「夏期ゼミ」レポート

最終日の上演の様子(提供写真)

福岡県高等学校芸術・文化連盟北九州支部と北九州芸術劇場が連携し、高校演劇部員を対象に開催している「高校生のための演劇塾」。その中核プログラムのひとつ「夏期ゼミ」が、8月上旬に北九州芸術劇場で行われました。

今年は北九州地区の9校から49名の高校生が参加。5つのチームに分かれ、3日間で一つの作品を創り上げました。会場は北九州芸術劇場大ホール、小劇場、創造工房・稽古場。普段は観客として訪れる場所を舞台にし、それぞれの空間の特性を活かした創作に取り組みました。講師を務めたのは、守田慎之介さん(演劇関係いすと校舎)、門司智美さん(有門正太郎プレゼンツ)、寺田剛史さん(飛ぶ劇場)、山口大器さん(劇団言魂)、飯野智子さん(バカボンド座)と、地元で活躍する演劇人たちです。

今回の題材となったのは、7月に行われた「戯曲講座」で高校生が書き上げた作品『過去の標識』。3日間という限られた時間の中で一つの戯曲が多様に解釈されました。

最終日の上演の様子(提供写真)

長年このプログラムに関わってきた守田慎之介さんは、「昔は演劇人が高校生に『教える』という一方向の形が中心でしたが、今は一緒に悩み、一緒に考えながら作っていく形に変わってきています。特にここ数年は、その流れを強く感じています」と話します。

演出を担当した山口大器さんも、自身が高校演劇の出身であることに触れながら、「生徒のアイデアに刺激を受けることが多いですね。こちらが教えるだけでなく、『Yes, and』の精神で一緒に広げていくことを意識しています。その過程で、自分自身の演出観が広がっていると感じます」と語りました。

最終日の上演の様子(提供写真)

創作の現場では、生徒たちの自由な発想が舞台を豊かにしました。守田さんは「あるチームでは、人数に対して登場人物が足りなかったため、どう増やすか悩んでいたところ、『芸術の魂』というキャラクターを加えるアイデアが生徒から出ました。予想外の提案に驚きましたが、実際に演じてみると作品に深みが増して、皆が楽しんでくれたんです」と振り返ります。

山口さんも「稽古の繰り返しを通じて細かな反応や呼吸を意識させたら、演技の厚みが一気に変わりました。生徒たちが生き生きとしていく姿を見られたのが大きな収穫でした」と話しました。

最終日の上演の様子(提供写真)

アンケートにも充実感あふれる声が寄せられました。「リアクションや呼吸など、今まで知らなかった演技を実感できた」「職業として演劇をしている人から直接アドバイスをもらえたのが貴重だった」「自分はこんなこともできるんだと気づけた」「友達もできて、本当に楽しくて幸せな3日間だった」といった感想が並びます。リピーターの参加者も多く、「学びが尽きない」と語る声もありました。

最終日の8月7日には発表会が行われ、短期間とは思えない完成度の舞台に大きな拍手が送られました。守田さんは「普段と違うやり方を試しながら、参加者から学ぶことができた。自分にとっても財産になった」と語り、山口さんは「ここで出会った生徒たちと、この先もつながっていければ」と願いを込めます。

最終日の上演の様子(提供写真)

夏期ゼミは、高校演劇部員の技術向上にとどまらず、同じ戯曲を通じて多様な表現を体験できる貴重な場として、そして学校や地域を越えた交流の場として、その意義を広げ続けています。