9月に「ひとんちで騒ぐな」の上演を控えた、福岡の劇団・万能グローブ ガラパゴスダイナモスの脇野紗衣さん(北九州市小倉北区出身)にインタビューを行いました。
ーー演劇を始めたきっかけをお聞かせいただけますか?
保育園の年長さんのときの生活発表会で、グリム童話の「金のがちょう」を演じたのが演劇との出会いでした。
主人公の王子様役を演じる、そのときに好きだった男の子と手をつなぎたいがためにお姫様役に立候補して、じゃんけんに勝って役を勝ち取りました(笑)
笑わないお姫様という設定だったので、物語の最後に「うふふ、おほほ、あはは」と笑うセリフしかなかったんですが、お母さんやお父さんたちが笑ってくれて、そのことがとても楽しいと感じました。
その後、小中高と演劇に少しずつ触れていき、高校卒業後に博多にある専門学校「九州ビジュアルアーツ」に進みました。
ーー演劇のどのあたりに楽しさを感じましたか?
小学校のときは、人の前に立つのがとても好きだったんですが、中学に入ると人見知りが爆発して、人前に出るのが恥ずかしくなりました。思春期ってこともあったんでしょうね。
でも演劇をやるときだけは平気でした。「自分」で人前に出るのは恥ずかしくても、「自分じゃない人」として出るのは全然恥ずかしくなかったです。演劇を通して何かを表現し、それを見てもらうのが楽しかったのかなって思います。
ーーガラパとの出会いを教えてください
専門学校の2年生のときに、ガラパの川口(大樹)さんの授業がありました。卒業後も演劇を続けたかったので、「研究生」として学校に残り、川口さんの授業にもそのまま参加させてもらっていました。
卒業間近に川口さんから、「5月の連休にガラパの若手ユニット『こわせ貯金箱』の次回公演『ラッキーフィッシュと浮かぶ夜』に出てみない?」と声をかけていただきました。私にとっても思い入れのある作品なので、お引き受けしました。
公演を終え、打ち上げのときに主宰の椎木(樹人)さんから「ちゃんさえ(編注:脇野さんのニックネーム)、ガラパに入らない?」とお誘いをいただきました。すごく驚きましたがまたとないチャンスなので、二つ返事で「入ります!」と答え、ガラパに入団することになりました。
ーー展開が早いですね(笑)
私にとってガラパは“憧れの団体”でした。だから『ラッキーフィッシュと浮かぶ夜』に呼ばれただけでも嬉しいのに、そこで楽しくお芝居をして、打ち上げでガラパに入らないかって主宰に言われて、「え?私ガラパに入れると?」って(笑)
卒業後、専門学校にそのまま就職することになっていたのですが、先生に相談した結果、働きながらガラパでの活動をすることになりました。
だから入団してしばらくの間は学校の仕事を終えた後、バタバタガラパの稽古場に行っていたんです。その頃はガラパの稽古に行くことが仕事を頑張る原動力になっていました。
ーーガラパに入団していちばん印象に残っている作品を教えてください
『甘い手』です。
お芝居にしっかり向き合うために、学校の仕事を半年くらいで辞めたんです。
いつでも稽古に行ける状況になったことで、2020年の『甘い手』の初演に出ることができました。ガラパに入ってすぐに本公演に出られると思っていなかったので、とても嬉しかったです。
また、2022年には『甘い手』の再演で北九州芸術劇場に凱旋することができ、普段は福岡市まで見に来ることのできない祖父母や、昔お世話になった人たちが観に来てくれました。
ーーガラパに入団してどんなものを得ましたか?
「アイデンティティ」を得ることができたと感じています。
ガラパのことをずっと好きだった人が、私のことも応援してくれるようになったり、逆に外の舞台で私のことを知ってくれたことがきっかけでガラパを見に来てくれるようになったりと、ということがあります。ガラパに入団したことで、私という存在を認めてもらうことができ、いろんな方に私の芝居を見てもらえるようになりました。
また、演劇を通してコミュニケーション能力が上がった気がします。もともと人見知りなのですが、人見知りをすることが作品を作る上で障害になるので、いい作品を作るために人と仲良くなろう、もっとよく知ってみようと考えるようになりました。おかげでいろんな人に話しかけることができるようになりました。
ーーでは出身の北九州市についてお聞かせください。北九州で好きな場所、思い出の場所はありますか?
到津八幡神社です。
おばあちゃんちから一番近い神社だったので、家族で毎年初詣に行っていました。
私が通っていた高校(小倉西高校)からも近く、妹といとこの受験が重なったときに、毎日お参りに行っていました。
そのおかげか分かりませんが、妹もいとこも試験に受かりました。その思い出も相まって、到津八幡神社が大好きです。
ーー当時はどんなところで遊んでいましたか?
高校生のときはそんなに交友関係が広いタイプではなかったので、母の送迎で思永中学校の室内プールに行って、朝から晩まで夢中で泳いでいました。泳ぐのが大好きなんです。
中学生のときは、西港のラウンドワンによく行っていました。
友達と朝9時から夕方の6時までカラオケでずっと歌ったこともあります。山盛りのポテトを食べながら、朝から夕方まで1日で声が枯れるレベルでずっと歌っていました(笑)
ーー脇野さんにとって北九州ってどんな場所ですか?
北九州市って福岡市と違って“ほどよく”都会じゃないですか。
小倉駅は駅ビルが、少し歩くとリバーウォークもあって、遊べるところも多いのに、実家の近くは住宅がたくさんあってほどよく静かです。バランスがすごくよくて安心して帰れる場所だなと思います。
地元の話をしていると帰りたくなりますね。時間があれば毎週帰りたいっていうぐらい北九州が大好きです。
ーー今回の作品「ひとんちで騒ぐな」について教えてください
「ひとんちで騒ぐな」はガラパの初期の代表作で、王道のコメディーです。2008年が初演で2010年に再演している、ガラパの今のスタイルが確立されるきっかけになった作品なので、“今のガラパのメンバーでやる面白さ”があると思います。
見たことがある人は全然違う作品として楽しめるし、初めて見る人にはガラパってこんなに楽しいんだと思ってもらえると確信しています。
客演で出てくれる土居上野の土居 祥平さんやアンビシャスzeroの中村 豪志さんとの共演も楽しみです。
ーー将来の目標をお聞かせください
今は福岡市中心の活動ですが、将来的には北九州の舞台に立つ機会をもっと増やしていきたいと思います。
二、三年前からやらせてもらっているナレーションの仕事も、もっと頑張っていきたいです。疎遠になっている人からも、ナレーション聞いたよと連絡をいただけることもありますし、北九州市に住んでいる祖父母にも、いつでもYouTubeで見てもらえるので。
ーーありがとうございました!
万能グローブ ガラパゴスダイナモス第31回公演「ひとんちで騒ぐな」 15年越しの再演