小倉駅に響いた「Action!」の号砲。3人の大学生記者と見た、北九州市が動き出す現場。

左から、ロバート・馬場裕之さん、ゆうこす(菅本裕子)さん、武内和久北九州市長、北九州市クリエイティブディレクター・下川大助さん

2月8日に、小倉駅JAM広場で開催された「Action! Fes 2026」。北九州市が掲げる「Action!」というメッセージを軸に、この街で実際に一歩を踏み出している人たちの取り組みを紹介し、来場者の「次の一歩」を後押しすることを目的としたイベントです。

武内和久市長

午前の部では、ライバー事務所・株式会社321のファウンダーで実業家のゆうこす(菅本裕子)さんが進行役を務めました。武内和久市長と北九州市クリエイティブディレクターの下川大助さんが北九州市の「今」について語り、お笑いトリオ・ロバートの馬場裕之さんは、門司区で取り組んでいるこぶみかんの植樹による新たな名産品づくりを紹介しました。午後は、Z世代の若者による活動発表で幕を開け、続いて「食のビジネスの『Action!』美食産業創造塾 特別版」「まちの賑わいを起こす『Action!』」「未来をえがく『Action!』特別授業」と、合計4つのステージが展開されました。

ゆうこす(菅本裕子)さん

60年ぶりの「潮目」と、公私の垣根を超えた連鎖

いま、北九州市はかつてない転換点にいます。

令和6年(2024年)に、実に約60年ぶりとなる社会増(転入超過)を達成。今年(令和8年・2026年)1月には2年連続の転入超過を発表しました。そして、企業誘致による投資額は2,500億円を突破。数字を見れば「好調」といえるでしょう。

 2024年に約60年ぶりとなる社会増(転入超過)を達成した北九州市(2025年1月撮影)

ただ、私が注目しているのは数字そのものよりも、その背景で街の「動き方」が変わり始めているという点です。

令和7年、10万人を動員した「クロサキスイッチ」、冬の小倉に定着した「小倉クリスマスマーケット」、若者の挑戦を後押しする「コクラBEAT」。市役所内には「Z世代課」や「すしの都課」といった、これまでの行政にはなかった新しい部署が設けられました。このように、行政がさまざまな仕掛けを積極的に打ち出している事実は、街の“OS”が確実にアップデートされていることを示しています。

クロサキスイッチの模様(2025年10月撮影)

しかし、さらに重要なのは、その“OS”の上で民間のプレイヤーたちが自発的に動き始めていることです。
今回のAction!フェスで、それが最もはっきりと現れていたのが「美食産業創造塾 特別版」の発表でした。八木田一世さんが紹介した美食産業創造塾は、令和7年4月に設立された、行政と民間24社が連携し北九州の食を都市ブランドへと成長させるためのアライアンスです。同年11月、勝山公園で開かれた「一期一食2025」には、2日間で約16,000人が来場しました。

八木田一世さん

八木田さんがステージで一社ずつ紹介した参加企業の顔ぶれは、この街の食のポテンシャルをよく表していました。世界10カ国に40店舗を展開し、日本一のティードリンク販売量を誇る辻利茶舗。100年以上の歴史を持ち、社長自らフランスに醤油を売り込むごとう醤油。ミシュラン二つ星を誇る江戸前鮨の二鶴は、北九州空港からバンコクへ昆布締めを空輸しています。全国地ビール品質審査会で2回最優秀賞を獲得した門司港ビール、博多駅で行列ができるミニクロワッサン専門店MIGNONを運営するクラウン製パン、全国的に人気となった黒瀬のスパイスなど、いずれも北九州に拠点を置く企業です。

八木田さんの話の核心は、「北九州は“美味しい”が日常にあふれていて、地元の人ほどその価値に気づきにくい。その結果、“何もないよね”と言われがちだ」という指摘でした。高級店だけが並ぶ街ではなく、地方全体の食文化が豊かな街にこそ人は魅力を感じる、という認識のもと、24社が集まって「食を目的に北九州に来てもらう」というムーブメントを起こそうとしています。

また、馬場さんが「帰省の際に食べるのは最近ではうどん。旦過うどんさんや錦うどんさんに行きます」と具体的な店名を挙げ、お土産にもかぼす果汁や旬の野菜、麦味噌を買って帰ると語る場面もありました。門司区で自ら育てているこぶみかんを使ったビールを門司港ビールと一緒に作ったという話では、スチール缶で乾杯するという八幡の製鉄所文化にも触れられ、北九州の食が「稼げる産業」に変わりつつある道筋が、具体的なエピソードを通じて浮き彫りになったセッションでした。

ロバート・馬場裕之さん

街を動かすエネルギーは、産業や若者の挑戦だけではありません。続いて紹介されたのは、政策局Woman Will推進室が展開する「Woman’s リアルVOICE プロジェクト」です。アンケートやカフェを通じて集まった1,700件を超える女性たちの「真実の声」を可視化し、単なる調査で終わらせず街づくりの原動力に変えていく 。こうした「個の物語」を大切にする姿勢こそが、今の北九州市を突き動かす「利他」と「再生」の根幹にあるのかもしれません。

次に展開された「まちの賑わいを起こすAction!」では、持留英樹さんのファシリテーションのもと、池部哉太さん、菊池勇太さん、soh souenさんがそれぞれの実践から「賑わいとは何か」を語りました。門司港でゲストハウス・PORTOを運営する菊池さんは「日常と非日常のバランスが大事。レトロな建築や若い人の出店といった日常のコンテンツがないと、訪れる人にとっても面白くない」と語り、古着屋を営む池部さんは「それぞれのこだわりを持って好きなことをやっている人たちが続けていけるような土台があること」が自身の考える賑わいだと述べています。現代アーティストのsoh souenさんは「社会で同時多発的に起こる主体的な活動に食いついていくのがアーティストの仕事」と語り、地方にはその動きが生まれやすい環境があると指摘しました。

「まちの賑わいを起こすAction!」に登壇した、池部哉太さん(左)、菊池勇太さん

印象的だったのは、みな「人が大勢いる状態」を賑わいとは呼んでいなかったことです。個人の「好き」が主体的に同時多発し、それが積層して地域のカルチャーになっていく。その過程にこそ賑わいの本質があるという認識が、異なるフィールドの実践者の間で共有されていました。

行政が場を作り、民間がその熱を拡張し、日常へと定着させる。その象徴的な例が、令和6年に民間主導で始まった「北九州昭和夏まつり」です。「見る祭りから参加する祭りへ」を掲げたこの祭りは、初年度にして14万人を動員。市役所の窓の灯りが「祭」の文字になっていた光景は、民間の熱に行政が呼応した瞬間でした。
バラバラだった個別の熱量が「Action!」という旗印のもとに繋がり、街を動かす「面」になろうとしている。この連鎖こそが、投資額以上にこの街の未来を担保する資産だと考えています。

Z世代の「自発性」が、街の景色を変え始めている

Z世代の発表の模様

今回、特筆すべきは午後の部冒頭に設けられたZ世代の発表ステージです。

北九州市が令和7年に開催した「Z世代はみだせコンテスト 2025」で採択された3名が、進行中のプロジェクトを発表しました。栗山 友良さんは、鍛冶町エリアの活性化を目的とした、飲食店の店主をトレーディングカード化するプロジェクト「モグっと推し活大将でGO!」を紹介。30店舗以上を訪問・交渉し、全14種のカードを制作しました。最初は断られても通い詰めて承諾を得たという過程も含めて、会場で語っています。久田 愛理さんは、ヴィーガン・ベジタリアン対応の飲食店情報サイトを制作中。比嘉 紗礼さんは、伝統織物「小倉織」と、兵庫・宝塚の老舗レースメーカー「リバーレース」を組み合わせ、新しいランジェリーブランドを立ち上げています。

左から、比嘉 紗礼さん、久田 愛理さん、栗山 友良さん

トレーディングカード、ヴィーガン情報サイト、ランジェリーブランド。いずれも行政が用意した枠組みの中に収まるようなアイデアではありません。「はみだせ」というコンテスト名の通り、自分の関心から出発し、北九州という街をフィールドにして形にしていく。午前の部でゆうこすさんが語った「個の力」の重要性を、まさにこの街で体現している人たちでした。

「未来をえがくAction! 特別授業」では、教育の現場から具体的な実践が報告されました。松下ゆか理さんが運営する「SPOT TEACHER(スポットティーチャー)」は、企業や専門家の授業を公立校へ橋渡しする仕組みで、累計約132授業、協力企業約80社にまで広がっています。増田順さんが校長を務める北九州市立高校では、600人の生徒による「株式会社 ICHIKO」がイベント運営や企業PR動画の制作を受注し、生徒の将来楽観度は定点観測で全国トップ級という結果が出ています。中島浩二さんは西日本工業大学で、到津の森公園「光る魔法の森公園プロジェクト」などといった地域連携のPBL(課題解決型学習)を社会実装しています。

「未来をえがくAction! 特別授業」に登壇した、増田順・北九州市立高校校長(左)、共育パレット株式会社代表取締役・松下ゆか理さん

ここで印象的だったのは、中島さんの「行政が失敗を許してくれるから、学生が思い切りやれる」という言葉でした。先に、Z世代の登壇者たちが見せた自発性も、こうした教育現場の実践と地続きのものだと感じています。

次のActionは、あなたのもの

行政がOSを更新し、24社が食で都市ブランドを作り、Z世代が30店舗を回ってトレーディングカードを作る。この街では今、行政・民間・若者の動きが活発になり、「Action」が、この街の日常になりつつあります。

この日のイベントに登壇した人たちに共通しているのは、最初の一歩が決して大きなものではなかったということです。こぶみかんの苗を植えること、店主にカードを作らせてほしいと頼むこと、校内に株式会社を作ってみること。どれも最初は、たった一人の”やってみよう”から始まっています。次にこの街を動かすActionは、あなたのものかもしれません。