「クロサキスイッチ」が示した“点を線で結ぶ”希望と、多極都市・北九州市の未来

先日の黒崎が、どれほどの熱気に包まれていたかーー

10月19日の黒崎の街には多くの人が集まっていました。

皆のお目当ては、「東京ディズニーリゾート®スペシャルパレード」。

ふれあい通りを埋め尽くした人、人、人……。主催者発表では10万人が来場したとのこと。あの空間は間違いなく近年稀に見る「熱狂」でした。


9月5日(金)にスタートし、約1ヶ月半にわたって行われた「クロサキスイッチ」。

26日(金)からは、黒崎駅ペデストリアンデッキがイルミネーションタワーの光に包まれ、行き交う人々の笑顔であふれていました。

ペデストリアンデッキで週替わりで開催された「餃子フェス」、「K-Food & アジアンフェス」、「ワールドビアフェス」などで駅前には新たな賑わいが生まれ、ふれあい通りのイルミネーションによって黒崎駅周辺もキラキラと輝いていました。

八幡餃子に舌鼓を打つ武内市長

その熱気が最高潮に達した終盤には、曲里の松並木公園で開催された「北九州平成秋まつり」や、ふれあい通りを埋め尽くした「東京ディズニーリゾート®スペシャルパレード」といった巨大な熱狂が待っていました。

何をもってイベントを「成功」とするかさまざまな意見はあると思いますが、来場者の笑顔の多さを基準にすれば、クロサキスイッチは「成功したイベント」と言えるのではないでしょうか。

「北九州平成秋まつり」も多くの人を集めました

しかし、私がこの光景から感じ取ったのは、単なる「イベントが成功した」という喜びだけではありません。それは、この北九州市という街が持つ「構造的な特性」に関わる、とても大きな「希望」でした。


ご存知の通り、北九州市は「北九州」という一つの街として生まれたわけではありません。

もともとは、小倉、八幡(黒崎)、門司、戸畑、若松という、まったく異なる歴史や文化を持った5つの市が、1963年(昭和38年)に合併して誕生した街です。

その結果この街は、一つの強固な中心(センター)を持つのではなく、複数の核(ポール)が点在するという「多極的な都市構造」が最大の特性となりました。

しかし、その特性はいつしか「弱み」として語られるようになりました。やれ小倉だ、黒崎だ、と“別物”として考える人も少なくありません。合併して62年経つというのに。


今回の「クロサキスイッチ」が持つ最大の意義。それは、あの熱狂を「小倉」ではなく「黒崎」で生み出したという事実に加え、その背景と手法にあります。

まず見逃せないのが、黒崎という街自体の「確かな活力」です。

市の統計によれば、令和7年(2025年)に入ってから、黒崎を含む八幡西区の「世帯数」は増加傾向を示しています(1月:114,465世帯 → 9月:114,555世帯 ※)。(※北九州市「八幡西区の毎月推計人口」より)

もちろん、市全体の人口が減少する中での世帯増であり、「世帯の小規模化が進んでいるだけなのかもしれない」という面もあるでしょう。

しかし、私はこれを単なる統計上の変化として片付けたくはありません。

これは、駅周辺のマンション建設などにより、黒崎エリアが単身者や新婚世帯などの新しい世帯を惹きつける「選択肢」として、再び選ばれ始めていることの証左ではないでしょうか。

そうした「新しい流れ」を裏付けるように、街の「経済的な新陳代謝」も進んでいます。魅力的な飲食店が増え、黒崎を含む八幡西区は「スタートアップ出現率」で全国4位(※)という高いポテンシャルを秘めています。(※出典:PR TIMES 「新興・スタートアップ企業」の出現率、北九州市など福岡県勢が台頭

「クロサキスイッチ」の成功は、単なる一過性のイベントの力ではなく、「人(新しい世帯を惹きつける力)」と「経済(起業家精神)」という、街がもつ本来の質的な活力が土台となって生まれた必然的なものだったと言えるでしょう。

そして、その活力を最大化したのが、今回の「手法」です。

パレードのような「強力なコンテンツ」はもちろんですが、私が注目したのは、期間中「黒崎96の日」や「熊手夜市~超縁日~」といった、これまでも地域が大切に育んできた魅力的なイベント群が、同じ期間に開催されていたことです。

提供写真(過去の「黒崎96の日」)

「クロサキスイッチ」の真の功績は、それら地域に根ざした「点(=個別の地域イベント)」を、「クロサキスイッチ」という一つの大きな「線(=共通のブランド・期間)」で見事につなげたことにあるのではないでしょうか。

新しい仕掛け(線)が、古くからの営み(点)を巻き込み、増幅させる。

個々のイベントが「線」で結ばれた結果、黒崎というエリア全体が、一つの大きな「面」となり、圧倒的な熱量を放つまでに至ったのです。


この「点を線で結ぶ」という手法こそ、「多極都市・北九州」が輝くためのヒントだと考えます。

「クロサキスイッチ」は、黒崎の街にスイッチを入れただけではありません。

それは、五市合併の街・北九州市が持つ「多極的な発展」という、この街の本当の可能性にスイッチを入れる合図となった出来事ではないか、そう考えています。

事実、この秋は黒崎だけが輝いていたわけではありません。若松では「WAKAMATSU Sparks」が、戸畑では「とばたマンス!」が開催されるなど、他の「極」もまた、街の特徴を生かしそれぞれの色で輝き始めていました。

小倉が、黒崎が、若松が、戸畑が、そして門司が。

「多極的な都市構造」が、街の特性として光を放ち、自分たちのエリアの「点を線で結ぶ」ことで、それぞれの「面」として輝き始める。

数年後振り返ってみると、「あの日の『クロサキスイッチ』が北九州市が生まれ変わるスイッチだったね」と言われる日が来るかもしれません。

クロサキスイッチ フォトギャラリー

ミッキー、ミニーの登場に黒崎中が沸きました

沿道には10万人の人、人、人……

地域の子どもたちもパレードに参加しました

パレードを待ち構える大勢の人たち

パレードを待ち構える大勢の人たち

曲里の松並木公園で開催された「北九州平成秋まつり」

イベントには地域の事業者さんも多数出店していました

大学生、大学院生の姿も。街ぐるみでのイベントでした

イベントには地域の事業者さんも多数出店していました

ふれあい通りのイルミネーション