ギラヴァンツ北九州の2019シーズンが終わった。
J3優勝、J2昇格(復帰)という幸せな結末となった今シーズン。
しかも前年J3最下位だったチームが1年で昇格、リーグ優勝に輝くというのは、漫画やドラマの世界で描こうとすると逆に現実離れし過ぎと忌避されるレベルの話だろう。
そんな「現実は小説より奇なり」を地で行った今シーズンのギラヴァンツ北九州を、3人のキーパーソンを通して振り返ってみたい。
小林伸二監督
もう今更説明する必要もなかろう。過去に指揮した4つのJ2チームを全てJ1に昇格させてきたことから「昇格請負人」と称される名将。
優勝決定後のコメントで不動の“King Of Kitakyushu”ベテラン・池元友樹選手から「普通のおじさん」と言われ、春先のテレビ番組でも早々にルーキーの新垣貴之選手から「普通のおっちゃん」と言われていたほど、その実績から想像される威圧感や近寄り難い雰囲気とは無縁の指揮官である。
およそ一年前。新監督就任会見後の囲み取材の際のこと。
「昨シーズンまで成績の低迷の原因のひとつに『選手のメンタルの弱さ』を指摘する声が出ていたが、その点に関してはどう思うか?」
という質問に対し、
「弱いっていうのはね、もしかしたら優しいという事かもしれない。色んな事に気を配れる繊細さを持っているという事かもしれない。だからメンタルが弱いっていう言い方はちょっとどうかな。正しいか分からないね。」
「選手達を褒めてあげたいね。僕みたいなおじさんだって褒められたら嬉しいんだから。褒めて伸ばしてあげたいね。」
ととても穏やかに答える姿が印象的だった。おそらくこの時、初めて小林監督と接した人達も、この監督の人柄の良さは間違いないと感じたのではなかろうか。
さらにこれもシーズン前、キャンプ地の鹿児島から急行して参加し、監督自らがビデオを使ったキャンプで行っているトレーニング解説でサポーターズカンファレンスを大いに沸かせた後の小林監督からの言葉なのだが、
「ゲームに出ていない選手のケアというのはとても大切。」
「プロの選手としての評価は試合のパフォーマンスだけでなく、ピッチ以外のパフォーマンスの評価というものがある。」
私はこれらの言葉から感じる人間力の高さと、過去の実績から
今シーズンは大丈夫。
そう確信した。
何が大丈夫かと言われると端的には答えられないのだが、とりあえずその「大丈夫」がまさかJ3優勝とは思っていなかった。
毎試合後の長い監督コメントをシーズン通して読み続けた方々もお分かりの通り、いずれJ1で戦う事を目標としたロードマップをしっかりと描き、その為にまず目の前でやるべき事は何かをその都度的確にチームに落とし込みながら今シーズンを戦い抜いた、強さと優しさを高いレベルで兼ね備えた知将であり名将。
やはりこの指揮官なくして優勝はなかっただろう。
髙橋大悟選手
北九州優勝に向けてギアを一段上げる事になったのが夏の補強。
正直この補強があたっていなければ、シーズン当初の目標である「6位以内」でフィニッシュしていた可能性が高いと思う。
その夏の補強選手の中からは髙橋大悟選手をピックアップ。
清水エスパルスの監督時代の小林監督が見出し、清水に呼んだ若き逸材。
大悟選手も小林監督を非常に慕っているという事や、出身地・鹿児島時代からライバルであり親友でもある生駒仁選手(横浜F・マリノスからレンタル)や、同じく同級生であり「大昔から知ってます」という佐藤颯汰選手(宮崎・日章学園)の存在も北九州でプレーする上でのモチベーションアップにつながったのではなかろうか。
彼が移籍後の個人成績に関しては文句なしに素晴らしいのだが、
もうひとつの大悟選手の大きな功績は、多くの清水エスパルスサポーターの方々がギラヴァンツ北九州に注目し、試合に来てくれ、北九州に関するポジティブな発信を積極的に行ってくれたことである。
元々清水サポーターにはファミリー感が強いという印象を持っていたのだが、大悟選手を通じて改めてそれを実感したし、伝統あるチームのサポーターから「褒められる」経験というのは、まだまだ歴史の浅いクラブであるギラヴァンツ北九州のサポーターには自信になったように思う。
チームの成績以外の部分でも大悟選手がギラヴァンツ北九州にもたらしてくれた好影響はとても大きい。
(髙橋大悟選手の写真ご提供:こばさん)
内藤洋平選手
2013年、柱谷幸一体制初年に加入。
2014年のJ2で5位、J1チームを2つ破っての天皇杯ベスト8から2016年のJ2最下位~降格、18年のJ3最下位までという、ギラヴァンツの良い時も悪い時も経験している数少ない選手の一人。
J3最下位となった去年のシーズン報告会での心に響くコメントから、「来季もチームに残ってくれればキャプテンは内藤選手で」と期待した人も多かったが、実際キャプテンを任された今シーズンの内藤選手は期待以上の働きを見せてくれることとなった。
前述の小林監督の言葉にある
「ピッチ以外のパフォーマンス」
をもっとも目に見える形で示してくれたのが内藤選手だろう。
より魅力あるチーム・クラブ作りのため、副キャプテンの池元友樹・川上竜両選手と選手会長の福森健太選手と共にクラブと話し合う機会を定期的に持ち、新たな試みを実行していった。
その中のひとつが「勝っても負けても相手サポーターの所に挨拶に行く」というものだが、これは今までのJリーグでは(おそらく)なかったことで、「そんなのはサッカーの文化にはない」と一部北九州サポーターから不満が噴出。
それでも選手達の「北九州まで来てくれた相手チームのサポーターへも感謝と敬意を表したい」という強い意志でシーズン通して続けられ、徐々に好意的な評価が北九州、相手チーム両サポーターの間に広がっていった。
そして特筆すべきなのはやはり今シーズンを象徴するのがSNSを使った「#もろびとこぞりてミクスタへ」のハッシュタグの仕掛け。
内藤選手が発信した「#もろびとこぞりてミクスタへ」のハッシュタグは、サポーターと選手の距離を縮め、更にサポーター同士の新たな繋がりをも作っていき、スタジアム内外での一体感を増す効果を生んだ。
今シーズンは怪我の影響もあり、試合に出場する機会は少なかった内藤選手だが、そんな状況の中でも選手という立場を生かし、行動し続けた姿は間違いなくチームの支えとなったはずだ。
以上、今回は直球な感じの3人を取り上げたが、言うまでもなく他の選手やスタッフの誰一人としてJ3優勝に欠かすことが出来ない功労者である。まさにちょうど今年の流行語大賞に選ばれた「ONE TEAM」。
もしギラヴァンツ北九州に玉井行人社長が来ていなければ。
もし小倉駅近くにミクスタができていなければ。
間違いなく小林監督を招聘することは出来なかったであろうし、今年のメンバーも違っていたかもしれない。
良いときも悪いときもあったが、それぞれのタイミングで北九州のために力を尽くし、報われたり報われなかったりした多くの人達が紡いできた思いや行動と、その他数多の目に見えないこと、小さくて些細なこと、複雑極まりないこと。
様々な要素の重なりと、これまでギラヴァンツ北九州に関わって来た全てが繋いできたものの結果が、令和元年のJ3優勝だったのだと思う。
期待されたより時間がかかったが、ようやく元いた場所で、新たなスタートラインに立つことが出来たギラヴァンツ北九州。
数年間留守にしていた間にJ2の風景も随分と変わっている。
次なるチャレンジも平坦な道のりではない。また良い時もあれば悪い時もあるだろう。想像もしないような未来も待っているだろう。
その全てを楽しみに、来シーズンのギラヴァンツ北九州の冒険が始まるのを心待ちにしている。
ギラヴァンツ北九州 J3優勝記念エッセイ
キタキュースタイルでは、ギラヴァンツ北九州のJ3制覇、J2昇格に関するエッセイを募集しています。
【書式】自由(文字数はおおむね800文字~3,000文字)
【原稿締切日】12月19日(木)
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