逆襲、開始【ギラヴァンツ北九州J3優勝記念エッセイ】

N是都Mさん(@coelacanthee)からご寄稿いただきました。

ギラヴァンツへの、そして北九州への愛が随所に感じられます。


最終節は藤枝を相手に悔しい敗戦となったものの、ギラヴァンツ北九州はJ2昇格・J3優勝という最高のダブルを達成して今シーズンを締めくくった。

思えばJ3降格から3年、悔しくて苦しくて先の見えない暗闇を歩き続けているかのような辛い日々だった。今年、“昇格請負人”小林伸二監督の就任により何かが変わる雰囲気は開幕前から漂っていたが、ここまで最高の結果をもたらしてくれるとは夢にも思わなかった。ギラヴァンツ北九州として動き始めてから10年、初めてのタイトルの味はこの上なく甘美だった。このチームが10年間で味わってきた紆余曲折が、私の節目節目となんとなくリンクしているような気がしている。J3優勝に合わせて、そんな話をさせてほしい。

<どこにでもある“北九州”>

2010年、ギラヴァンツ北九州がJ2に昇格したとき、私はまだ高校生だった。今となっては年間1勝しか挙げられなかった伝説の年である。それでも、北九州初のプロスポーツチーム、博多の森まで行かなくてもJリーグが見られるとあればなんとなく楽しかった。

私が高校を卒業して県外の大学に進学したとき、ちょうど三浦監督が去って多くの選手もいなくなった。私も初めてのひとり暮らしや新しい環境でバタバタとしており、以前のようにギラヴァンツの様子を追っていない時期もあったが、進学先の県にあるJチームとのアウェイ戦のときは4年間欠かさず通った。

私が大学を卒業してまた別の街で働き始めた一年目、ギラヴァンツ北九州はJ3への降格が決まった。こんな風に節目でチームに何かが起きているため、わりと鮮明に記憶している。つまり、この優勝という節目でまた来年くらいに私の身に何か起きるかもしれない。

それはさておき、私は北九州を離れてからそこそこ経つ。住み処を転々としている中でも近くにJリーグのチームはずっとあったので、できるだけ近場のアウェイには見に行くようにしていた。そこに行けば、少し口が悪くて言葉が荒いけれど愛すべき北九州の仲間たちがいたし、試合がある日のその数時間、ゴール裏は紛れもなく私の地元である“北九州”だった。それはどこにでもあった。あるときは愛媛のニンスタが、あるときは清水のアイスタの一部が北九州だった。

私のように居場所を転々としながら生きている人間は、ややもすれば地元への思いや郷愁なんてものはどこかに置き忘れてしまっていてもおかしくない。それでも、ここまで私が地元への気持ちを心に灯し続けられているのはギラヴァンツ北九州というチームがあったからだと、そう思う。住んでいる場所が北九州から遠く離れていたとしても、DAZNで中継を見る私の心は北九州に帰っていた。中継を見ることができずに後で試合結果を確認するときには、否が応でも北九州という文字から様々なことを思い出す。このチームは10年間でそんな存在になってきたのだと思う。

<この街の持つポテンシャル>

ミクスタができる前の本城陸上競技場時代から、私は何度かチームと北九州という街の持つポテンシャルを感じさせるような場面を味わったことがある。ミクスタのように声も反響しない上に今よりもっとサポーターが少ない本城時代でも、サポーターのチャントに呼応して自然発生的に手拍子が起こった。チャンスを迎えて上がるボルテージと、相手チームを飲み込みそうな雰囲気があった。それは数分で消えてしまうようなものだったが、この街の人々を本気で熱くさせることができたなら、もっとこのチームは上に行けるし大きな存在になれると感じた瞬間が、何度かあった。

今、私たちにはミクスタがある。去年・一昨年とギラフェスで大入りとなったミクスタには、やはり私が昔感じた雰囲気があった。一昨年、山藤健太が豪快なミドルを叩き込んだ後、真っ黄色のスタンドが一斉に沸く様はJ3のそれではなかった。でも、それで終わりだった。

一試合だけどんなに良い試合をしても、結局ギラフェスで集めたお客さんは居つかない。この街もチームも、もっと出来るはずなのにと歯痒い思いをしていた。そんなここ数年の鬱憤を晴らすかのように、ようやく今年歯車が噛み合い始めた。多くの人の記事でも名前が挙がるが、内藤洋平の「#もろびとこぞりてミクスタへ」は本当に上手かった。試合後に様々なSNSを見ると、この10年でおそらく一番多く「初めて来た、楽しかった」「また行きたい」「選手たちが近くて迫力があった」「格好よかった」と嬉しいワードが飛び交っていた。そしてチームは最高の結果を出した。

日に日に、ゴール裏の黄色は増えていった。近場のアウェイ且つ大事な一戦とはいえ、熊本のゴール裏を完売させるなんて何かの間違いだと思った。

それでも、まだ足りない。まだ足りないし、この街もこのチームもまだやれる。

きっと来年は厳しい戦いになるだろう。J2に最後にいた年よりももっと難しいリーグになっているに違いない。思うように勝てないチームを見て、今年の強さでファンになった人は離れたくなるかもしれない。でもきっと、今年のように最後まで必死で走り続け、勝っていてもゴールを目指し、負けていたなら終わりの笛が鳴るまで死に物狂いでボールを追うサッカーは応援したくなるはずだ。それを続ければ、結果も自ずと付いてくる。

10年目という節目で取った初めてのタイトル。10年前と同じJ2昇格。もう年間一勝は許されない。
ただ、この数年が。J3で過ごした地獄の日々が。ギラヴァンツ北九州を新たなるステージへと運ぶために必要な道だったと思っているのは私だけではないだろう。

10年後、あるいはもっと早く。この街にはそれができるだけのポテンシャルがある。今度は別のシャーレを掲げている北九州の選手たちを夢見て、まずは来年のJ2を戦い抜こう。

本当に楽しくて幸せな一年間だった。ありがとう。

ギラヴァンツ北九州 J3優勝記念エッセイ

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