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約3000人の中の1人【エッセイコンテスト 入選作品】

エッセイコンテスト「第1回 キタキュースタイルカップ」 入選作品

カメラ機材、照明、撮影スタッフの動きを眺めていると、胸が高鳴る。高校生のときにアルバイトで初めて買ったフィルムの一眼レフカメラ。いつかカメラマンになりたいと思う気持ちを抑え、私はカメラとは縁のない場所で仕事をしていく。しかし、仕事とは違う形で撮影現場に参加する。一度、諦めていた世界を北九州で見つけた。映画のエキストラ出演である。ただの何の変哲もない一般人である私が、映画のエキストラ出演をすることで役を与えられ、演じ、映画の撮影を楽しむことができる。その大切な場所を、北九州は与えてくれる。多くの撮影が行われ、その撮影は大規模なものも数多い。これだけ大規模な撮影ができるのは、全国からみても北九州だけではないだろうか。

北九州は映画の街。そう言われるようになったのは、いつからだろう。多くの映画監督が、ロケ地を北九州に選び、撮影を積み重ねていくことによって映画の街というイメージが定着していく。監督たちはなぜ、北九州を選んでいるのだろう。ロケーションがいいから?それとも空港が近いから?それも要因の一つだろう。しかし、最大の要因は他にあるのではないだろうか。撮影現場を取り仕切っているのは、映画のスタッフ以上の存在がそこにはある。それは北九州フィルムコミッションの存在だ。職員やボランティアスタッフが一丸となって、大規模な撮影を支えている。私はエキストラとして参加し、彼らの活躍を目の当たりにした。映画撮影はときに大勢のエキストラを出演させる必要があるが、これだけ多くの人を集めることができるのは北九州ならではだろう。

2016年7月某日。「相棒-劇場版IV-」の撮影が北九州市の小文字通りで行われた。銀座大通りに見立てたオリンピック凱旋パレードのシーンに、約3000人のエキストラが参加した。私はその3000人の中の1人だ。オリンピック選手に「おめでとう!ありがとう!」と、日本の国旗を掲げて、パレードを盛り上げる観客役。オリンピック選手もエキストラである。首に掲げた金メダルが神々しく、車の高台で手を振る姿が本物のオリンピック選手のようで羨ましかった。私は照りつける日差しの中、必死に手を振り、自分の役を全うした。目の前に主役となる俳優が現れたときは、ただの一般人になっても、撮影となれば気持ちは観客だった。エキストラは気が抜けない。なぜなら、大移動するからだ。ぼーっとしていたら、ついていけなくなってしまう。約3000人のエキストラとはいえ、本物のオリンピック凱旋パレードの観客数にはほど遠い。大通りをゆっくり進む凱旋パレードの車に沿って、ABCD…と班を分けられた観客役のエキストラは、撮影箇所が終われば移動する。ちょっとお手洗いに行こうものなら、私の持ち場はどこだ?と行方不明になる。大勢のエキストラが所定の位置に移動し、演じ、また移動していくので、自分の持ち場や役柄をしっかり把握していないと、撮影は進まないのだ。

私たち1人1人のエキストラを支えてくれた北九州フィルムコミッションは、約3000人のエキストラを集め、そして道路を12時間も封鎖し、撮影をやり遂げた。撮影が終わったとき、私は心底ホッとした。なぜなら二度、雨天により、撮影が中止になったのだ。雨の中、カッパを着て撮影に挑むも、撮影続行不可能となり、現場で撮影中止が知らされた。弁当だけを手に取り、とぼとぼと帰った日を忘れはしない。このまま撮影が行われないまま終わってしまうのではないかと落ち込んだ。3度目の挑戦、とにかく暑かった。撮影の終盤、空に舞う風船が北九州の空を彩り、なんとも言えない感動に包まれた。

今、新型コロナの影響で、大規模な撮影は当分できないかもしれない。だがいつの日か必ず、またあの感動の瞬間が訪れる日がくる。それまで映画に少しだけ映った自分を観ながら楽しんでいる。
私のエキストラの朝はいつも早い。無地の服を選び、光るネックレスなどは避け、目印となる目立たない帽子を被る。「今から北九州へ行くぞ」どんな撮影なのか、期待と緊張感でいっぱいだ。

作者:アリサトユリさん